厚生労働省が2026年7月31日に発表したところによると、令和8年度の「全国労働衛生週間」は10月1日(木)から7日(水)まで行われます。今年で第77回。そして見落とされがちなのですが、9月1日から30日までがその「準備期間」と定められています。つまり、いまがまさにその期間のただ中です。

「週間」と名のつく行事はたくさんあって、ポスターが貼られて終わり、ということも少なくありません。ただ今年に限っていえば、中小企業にとってこの1か月は、ふだん後回しにしている職場の健康まわりを一気に片づけられる、めずらしく都合のいい時期です。理由は後半で述べますが、ひとことで言えば健康経営優良法人2027の申請締切(10月16日)と、ぴたりと重なっているからです。

今年のスローガンは「ひとりひとりが貴重な人材」

今年度のスローガンは、一般公募で集まった131作品の中から選ばれた、鈴木亜紀さんの作品です。

「ひとりひとりが貴重な人材 心も体も健やかに みんな生き生き健康職場」

厚生労働省は、このスローガンについて「働く方ひとりひとりが貴重な人材であることを念頭に、心身ともに健康を保ち、生き生きと働き続けることができる職場づくりを目指していく」ことを表したものだと説明しています。

率直に言って、人手不足に直面している会社ほど、この言葉は他人事ではないはずです。採用が難しい時代に、いま働いている人が健康を崩して抜けることの重さは、以前とは比較になりません。かつて職場の健康管理は「法律で決まっているからやること」でした。いまは「事業を続けるためにやること」に変わってきている——スローガンの言い回しは、その変化を素直に映しているように読めます。

そもそも全国労働衛生週間とは

全国労働衛生週間は、労働者の健康管理や職場環境の改善など、労働衛生に関する意識を高め、職場での自主的な活動を促すことを目的に、昭和25年(1950年)から毎年実施されてきた取り組みです。今年で77回目という数字が、その歴史の長さを物語っています。

ここで正直に押さえておきたいのは、この週間そのものに、罰則を伴う法的な強制力はないということです。「実施しなければ違反」という性質のものではありません。厚生労働省が挙げている取り組み例も、職場巡視、スローガンの掲示、労働衛生に関する講習会・見学会の開催といった、自主的な活動が中心です。

では意義が薄いのかというと、そうではないと考えています。年に一度、決まった時期に、決まったテーマで職場を見直す機会が全国的に用意されている——この「みんながやっている時期だから、うちもやろう」という後押しは、小さな会社ほど価値があります。社内で健康の話を切り出すとき、「国の週間だから」という理由ほど、角の立たない口実はありません。

厚生労働省が挙げた重点分野を、自社に置き換える

今年度の発表で、厚生労働省は労働衛生分野の取り組みとして次のような柱を挙げています。高年齢労働者をはじめとした労働者の健康管理、過労死等の防止を含めた長時間労働による健康障害の防止対策、メンタルヘルス対策、病気を抱えた労働者の治療と仕事の両立支援。加えて、特定化学物質障害予防規則や石綿障害予防規則などに基づく化学物質対策とリスクアセスメントです。

化学物質を扱わない業種の方は、後半は読み飛ばして構いません。しかし前半の4つは、業種を問わず、ほぼすべての中小企業に当てはまります。ひとつずつ、自社に置き換えてみます。

高年齢労働者の健康管理。2026年4月から、高年齢労働者の安全と健康の確保が全事業者の努力義務になりました。転倒や墜落・転落は、年齢が上がるほど重症化しやすくなります。この点は別の記事で詳しく取り上げていますので、あわせてご覧ください。

長時間労働と過労死等の防止。ここは「うちは残業が多くないから」で終わらせず、実際の時間を数字で確認するのが準備期間の使い方です。月別・部署別に並べてみると、特定の月・特定の担当者に偏っていることがよくあります。

メンタルヘルス対策。従業員50人未満の事業場にもストレスチェックの実施が義務づけられることが決まっており、施行日は2028年4月1日です。まだ先ではありますが、準備を始めるのに早すぎることはありません(こちらの記事で整理しています)。

治療と仕事の両立支援。がんや脳卒中などの治療を受けながら働き続けられるかどうかは、通院のための休暇や、短時間勤務の仕組みがあるかで大きく変わります。制度がないから辞めてもらう、では会社が持ちません。

9月のうちにできること——費用のかからないものから

準備期間にやることを、負担の軽い順に挙げてみます。どれも、この記事を読んだその日から着手できるものばかりです。

まず、ポスターを掲示すること。拍子抜けするかもしれませんが、これが出発点です。厚生労働省のサイトから第77回のポスターとリーフレットのPDFが公開されており、印刷して休憩室や更衣室に貼るだけで、社内に「今月はそういう月なのだ」という空気が生まれます。費用は紙代だけです。

次に、職場巡視をすること。安全衛生委員会や産業医のいない小さな会社でも、社長と数人で30分ほど社内を歩いてみるだけで、気づくことはたくさんあります。照明が暗い、床が滑る、通路に物が置かれている、休憩スペースが実質的に機能していない。歩いた日付と気づいた点をメモに残しておけば、それがそのまま記録になります。

三つ目に、健康診断の実施状況を洗い出すこと。9月は「職場の健康診断実施強化月間」でもあります。未受診者は誰か、要精密検査の結果が出た人にその後のフォローができているか、医師からの意見聴取は済んでいるか。健診は受けて終わりではありません。この点は受診率と事後措置の記事で詳しく書きました。

四つ目に、短い勉強会を開くこと。全員を集めて30分。テーマは何でも構いません。腰痛予防でも、睡眠でも、熱中症の振り返りでも。外部講師を呼ばなくても、協会けんぽや産業保健総合支援センターが無料の資料や相談の窓口を用意していることが多く、まずは加入している保険者に問い合わせてみるのが近道です。

ここが今年の要点——認定申請の締切と重なっている

さて、冒頭で触れた話に戻ります。健康経営優良法人2027(中小規模法人部門)の申請受付は、2026年8月17日に始まり、締切は10月16日(金)17時です。認定申請料は15,000円(税込16,500円)とされています。

つまり準備期間の9月と、申請書を書き上げる9月が、完全に同じ月だということです。この偶然は、使わない手はありません。

申請書を書くときにいちばん困るのは、「取り組んでいないこと」ではなく、「取り組んではいるが、記録がないこと」です。健康の話をしたことはある。職場を見て回ったこともある。けれど、いつ・誰が・何をしたかを残していない。だから書けない——これが本当によくあるつまずきです。

ですから今年は、週間の取り組みを「記録を残す前提」でやってみてください。ポスターを貼ったら貼った状態を写真に撮る。職場巡視をしたら日付と参加者と気づいた点をA4一枚にまとめる。勉強会をしたら開催日・テーマ・参加人数を控える。それぞれ数分の手間ですが、この数分が申請書の空欄を埋めます。

なお、これは認定されるための裏技ではありません。認定の可否は要件への適合状況によって審査されるもので、記録を整えたから通る、という話ではないことは正直に申し上げておきます。ただ、すでにやっていることを、書ける形にしておく——それだけで前に進める会社は、決して少なくないと感じています。

申請の手順やIDの準備については受付開始の記事を、申請書に加わった新しい設問についてはPHRの記事をご覧ください。まだ健康宣言事業への参加が済んでいない場合は、申請の前提条件になりますので、まずそこからです。

10月の本週間で「締める」

9月に準備をして、10月1日から7日の本週間で締めくくる。この流れをつくっておくと、取り組みが尻すぼみになりません。

本週間にやることは、大げさなものである必要はありません。朝礼でスローガンを読み上げる。準備期間に見つかった問題のうち、直せるものを1つ直す。全員に「体調で気になっていることはないか」と一度きちんと聞いてみる。それで十分です。

そして、週間が終わったところで、やったことを一覧にして残しておく。翌年の9月に同じ紙を開けば、去年何をしたかが分かります。健康経営は単発の行事ではなく、毎年めぐってくる仕組みにできたときに、はじめて力を持ちます。年に一度、国が日付を決めてくれているというのは、その仕組みをつくるうえで、じつはとても心強い条件です。

おわりに

77回という数字を見て、少し感慨がありました。昭和25年から数えて77年、日本の職場はずいぶん変わりましたが、「働く人が健康でなければ、仕事は続かない」という一点だけは、まったく変わっていないのだと思います。

従業員が数人の会社に、大企業のような衛生管理体制は作れません。産業医もいなければ、専任の担当者もいない。それでも、ポスターを一枚貼ること、社内を30分歩いてみること、健診の結果を一度きちんと見返すこと——これなら、今日からできます。そして、その積み重ねの記録が、そのまま認定申請の材料になり、来年の自分たちを助けます。

9月はまだ始まったばかりです。今年のスローガンにあるとおり、ひとりひとりが貴重な人材。その言葉を、掲示物ではなく実務に落とすための1か月にしてみてはいかがでしょうか。

健康経営をこれから始める方ははじめの一歩の記事を、職場の健康づくりの新しい流れについてはTHP指針改正案の記事もあわせてご覧ください。

本稿の内容は執筆時点(2026年9月4日)の公開情報に基づきます。全国労働衛生週間の実施期間・スローガン・重点事項については厚生労働省の報道発表資料「令和8年度『全国労働衛生週間』を10月に実施」(令和8年7月31日)および同発表に添付された実施要領を、健康経営優良法人2027(中小規模法人部門)の申請期間・申請料・申請手続については健康経営優良法人認定事務局のポータルサイト「ACTION!健康経営」を、必ずご自身でご確認ください。申請にあたっては事前に健康宣言事業への参加が必要であり、その内容は加入している保険者や自治体によって異なります。また本稿は、特定の取り組みによって健康経営優良法人の認定取得や特定の効果が得られることを保証するものではありません。

← コラム一覧へ戻る