健康経営の土台は健康診断——以前の記事でそうお伝えしました。ただ、実務の世界には続きがあります。健診は「受けさせたら終わり」ではありません。むしろ労務管理として大切なのは、受けた後です。この記事では、受診率100%の作り方と、見落とされがちな「事後措置」の実務を、社会保険労務士の視点で整理します。

受診率100%は「当たり前」ではない

定期健康診断は労働安全衛生法上の義務で、対象となる従業員に受けさせることは会社の責任です。ところが現場では、「忙しくて行けなかった」「パートの人は対象だと思っていなかった」といった理由で、静かに未受診が積み上がります。

まず押さえたいのは対象範囲です。週の労働時間などの条件を満たせば、パート・アルバイトの方も健診の対象になり得ます。「正社員だけ受けさせていた」は、よくある見落としです。自社の対象者リストを一度、雇用形態を問わず洗い直してみてください。

受診率を上げるコツは、根性論ではなく段取りです。受診日を業務として最初からスケジュールに組み込む、未受診者には期限を切って個別に声をかける、受診状況を一覧で見える化する——この3点で、多くの会社は100%に届きます。

本当の勝負は「受けた後」

健診結果に所見があった場合、会社には次のステップがあります。ここが「受けっぱなし」との分かれ目です。

法令上、健診結果について医師の意見を聴き、必要に応じて就業上の措置(労働時間の短縮、作業の変更など)を検討することが求められています。小さな会社では「結果は本人に渡して終わり」になりがちですが、所見を放置した従業員が後に倒れた場合、会社の安全配慮義務が問われる可能性があります。健診は、従業員を守ると同時に会社を守る仕組みでもあるのです。

再検査・精密検査のフォローも同様です。「要再検査」の紙を渡して終わりではなく、受けたかどうかを確認する運用まで作って、初めて意味があります。プライバシーに配慮しつつ、総務から一声かける仕組みがあるだけで、行動率は大きく変わります。

記録が、そのまま健康経営の資産になる

受診率、事後措置の実施状況、再検査のフォロー記録——これらをきちんと残しておくと、健康経営優良法人の申請でそのまま使えます。健診関連は認定でも基本の評価項目だからです。

逆に言えば、記録がバラバラだと、申請のたびに掘り起こす羽目になります。上位区分(ブライト500など)を目指すなら、日々の記録の積み上げが評価の差になります。エクセルでも構いませんが、担当者が代わっても続く形——決まった置き場所と決まった様式——にしておくことが肝心です。

おわりに

健康診断は、どの会社も毎年やっている「いちばん身近な健康施策」です。だからこそ、受けっぱなしをなくすだけで、健康経営の実質は大きく前進します。新しいことを始める前に、まず今年の健診の受診率と、所見者へのフォロー状況を確認してみてください。

事後措置の体制づくりや記録の仕組み化は、健康経営ポータルと社会保険労務士の知見でご支援できます。お問い合わせフォームからご相談ください。

本稿の内容は執筆時点の公開情報と一般的な実務経験に基づきます。個別の労務判断は、必要に応じて専門家にご確認ください。

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