第10期介護保険事業計画(2027〜2029年度)の基本指針について、2026年6月29日の社会保障審議会・介護保険部会に「基本指針の構成について」という資料が示されました。中身は、告示の見出しを現行のものと並べて比べた新旧対照のような資料です。地味な体裁ですが、ここには「市町村が計画に何を必ず書くのか」が組み替えられるという、実務にいちばん近い変更が入っています。夏のあいだにニーズ調査の集計が上がってきて、これから計画案の骨子を固める——ちょうどその手前で、押さえておきたい話です。
必須記載事項と任意記載事項という二段構え
前提を先に整理しておきます。市町村介護保険事業計画の中身は、基本指針のなかで「基本的記載事項」と「任意記載事項」に分けて示されています。基本的記載事項は必ず書かなければならない項目、任意記載事項は地域の実情に応じて書く項目です。実務では、この二つの区分がそのまま計画書の章立てや、庁内・審議会での説明の重みづけにつながっていきます。
現行(第9期)の基本的記載事項は、日常生活圏域、各年度のサービス種類ごとの見込み量、各年度の地域支援事業の見込み量、そして予防・重度化防止と給付適正化の取組と目標設定——という4本立てでした。いずれも「各年度」、つまり3年間の話が中心だった、と言い換えてもいいと思います。
案では、必須の欄に「中長期」が入ってくる
今回の改正案では、この4本立てが5本立てに組み替えられる方向が示されました。順に見ていきます。
まず、サービス種類ごとの見込み量の項目が「各年度における介護給付等対象サービスの種類ごとの量の見込み及び2040年度を含む中長期的な推計」となります。地域支援事業の見込み量も同じように、「2040年度を含む中長期的な推計」が付け加わる書きぶりです。3年分を出せば足りていた欄に、その先の見通しを併記することが求められる、ということになります。
さらに、「2040年を見据えた中長期的なサービス提供体制の確保に関して取り組むべき事項」という項目が新しく立ちます。推計の数字を出すだけでなく、その数字を受けて何をするのかまでを必須の欄で書くという構えです。
もうひとつ、見落としやすい変更があります。現行では中長期的な推計は「計画の作成に関する基本的事項」——つまり作り方を説明する側の章に置かれていました。案ではこれが整理され、推計は必須記載事項の側へ、目標は「第10期の目標」として独立する形になります。同じ言葉が計画のどこに置かれているかが変わるだけ、と見ることもできますが、「作り方の説明」から「計画の中身そのもの」へ位置づけが上がるのは、そこそこ大きな話だと受け止めています。
任意記載事項の側も少し広がる
任意記載事項では、人材に関する項目が「地域包括ケアシステムを支える人材の確保及び介護現場の生産性の向上の推進、経営改善支援等」となり、経営改善支援が明示的に加わる案になっています。部会の資料では、都道府県が主体となって人材確保のプラットフォームを構築することや、生産性向上の取組を進めるための協議会を設けること、協働化・大規模化による経営基盤の強化などが柱として挙げられていました。
また、有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅に関する項目は、現行の「入居定員総数」に「及び要介護者等の入居状況」が加わる案です。定員を数えるだけでなく、実際にどういう方が入っているかまで見る、という方向で、この論点は別稿でも取り上げました。
秋のうちに手をつけておきたいこと
いちばん大きいのは、やはり推計の射程が延びることです。これまで3年分で組んでいた見込み量の作業に、2040年度という遠い年次が加わります。ここで大切なのは、遠い年の数字を精密に当てにいくことではないという点です。人口動態と認定率の傾向から、どのサービスが増えてどのサービスが頭打ちになるのか——その方向と大きさを、根拠つきで示せることのほうが、はるかに実務的な価値があります。前提を明示し、幅を持たせて示す。そのうえで、何が起きたら見直すのかを書き添えておく。これで十分に成り立ちます。
次に、「取り組むべき事項」を推計と地続きで書けるかどうかです。推計の章と施策の章が別々に立っていて、読み比べても因果がつながらない計画は、これまでも少なくありませんでした。第10期では、この二つが必須の欄として並びます。推計で見えた課題が、そのまま施策の前提として引用されている——その一本の線を通しておくと、審議会でもパブリックコメントでも説明がずいぶん楽になります。組み立て方はロジックモデルの回で書いたやり方がそのまま使えます。
そして、圏域別に材料を持っておくこと。中長期の見通しは、市町村全体の平均で語ると実態が消えてしまいます。圏域ごとに人口と認定者数の推移を並べておけば、地域類型の議論(中山間・人口減少地域の話)にも、都道府県との協議にも、同じ材料が使えます。ニーズ調査の結果を圏域別に読み直す作業は、以前ご紹介した手順のとおりです。
いつ確定するのか
ここまでの内容は、あくまで部会に示された案の段階です。報道によれば、基本指針は課長会議で案が示されたうえで年内の告示が予定されているとされています。確定した文言は告示を待つ必要がありますので、計画本体に細かい表現を書き込むのは、告示を見てからで構いません。
ただ、推計と材料集めは告示を待つ必要がありません。むしろ、告示が出てから2040年度の推計に着手するとなると、年明けの計画案づくりと完全に重なります。いま着手できるのは推計、告示後に整えるのは文言——この分担で考えておくと、年度末までの工程に無理が出にくくなります。全体の工程もあわせてご確認ください。
おわりに
必須記載事項が増えると聞くと、まず身構えてしまうのが正直なところだと思います。ただ、今回加わろうとしているのは「この地域はこの先どうなり、だから何をするのか」という、計画がもともと答えるべきだった問いです。3年ごとの見込み量を積み上げる作業のなかで、その問いを立てる余白がなかなか取れなかった——そういう実感を持っておられる方も多いのではないでしょうか。
2040年という年次は遠く感じますが、第10期の3年間はその手前の助走にあたります。いま手元にある人口推計と認定データを、少し長い目盛りで並べ直してみる。まずはそこからで十分です。秋はまだ、数字とじっくり向き合える時期だと思います。
「この推計の置き方で説明が通るだろうか」「うちの計画のどこに書くのが自然か」——そんな段階のご相談も歓迎です。お問い合わせフォームからお気軽にどうぞ。私たちも、計画づくりに向き合うみなさんを応援しています。
本稿の内容は執筆時点の公開情報に基づきます。ご紹介した記載事項の組み替えは、2026年6月29日の社会保障審議会介護保険部会(第135回)に示された改正案の段階のものです。最新の正式な内容は厚生労働省の告示・通知および各審議会の資料をご確認ください。
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