2026年6月29日の社会保障審議会・介護保険部会に、「特定地域(中山間・人口減少地域)の考え方について」という資料が出されました。第10期介護保険事業計画(2027〜2029年度)の基本指針案とセットで示されたもので、耳慣れない言葉が並ぶこともあり、目を通したまま保留にしている自治体も多いのではないでしょうか。けれども、これは計画の書き方そのものに関わる論点です。この夏のうちに、自分のまちに引きつけて確かめておきたいことを整理します。

「特定地域」とは何か

ひとことで言えば、介護サービスの基盤を維持することが構造的に難しい地域を、国が客観的な指標で切り出す仕組みです。基本指針案では、全国の市町村を大きく「中山間・人口減少地域」「大都市部」「一般市町村」の3つの類型に分けてとらえ、それぞれの事情に応じた計画づくりを促す方向が示されました。特定地域はこのうち最初の類型にあたります。

類型を分ける狙いは、単なる呼び分けではありません。中山間・人口減少地域については、事業所・施設の人員配置基準の弾力化などを可能とする仕組みの活用が検討されています。利用者が少なく、職員も集まらない地域で、全国一律の基準をそのまま当てはめ続けることの無理を認めたうえで、サービスを残す道を探る——そういう趣旨の枠組みだと理解しておくとよいと思います。

どこが対象になりうるのか

部会に示された基準案は、大きく3本立てでした。まず特別地域加算や離島等相当サービスの対象となっている地域。これに加えて、75歳以上人口の密度が1平方キロメートルあたり5人未満の地域、そして75歳以上人口が1,000人未満で、かつ減少している地域という指標が挙げられています。報道によれば、これらを合わせるとおよそ350を超える市町村が候補になる見通しです。

実務上とくに押さえておきたいのは、市町村まるごとでなくても、その中の一部地域を指定できるとされている点です。旧市町村単位、行政区単位、日常生活圏域単位——こうした区切りでの指定が想定されています。合併を経て広い面積を抱える市町村では、平均値で見れば何でもないように見えて、旧町村部だけを取り出すと様相がまったく違う、ということが起こります。「市全体の数字では対象外だから関係ない」と早合点しないことが大切です。

決めるのは都道府県、でも起点は市町村

指定の流れも示されています。市町村が介護保険事業計画の策定のなかで対象地域を検討し、都道府県が市町村の意向を丁寧に確認したうえで特定地域を定める、という組み立てです。つまり、都道府県から降ってくるのを待つ話ではありません。市町村が自分の地域の実情を根拠とともに示せるかどうかが、出発点になります

第10期の基本指針案では、中長期の推計や広域的なサービス基盤の設計について、これまで以上に都道府県の関与が求められる方向が打ち出されています。特定地域の議論も、その流れの中にあります。秋以降、都道府県との協議の場が本格化する前に、手元の材料を整えておけるかどうかが効いてくる場面です。

いま、確かめておきたいこと

まずは圏域別・旧市町村別に75歳以上人口の現在値と推計を出してみることです。市町村全体の平均だけを見ていると、地域内の濃淡は絶対に見えません。面積あたりの密度という視点は、これまでの計画づくりであまり使ってこなかった自治体も多いはずですが、今回はここが判定の物差しになります。

あわせて、その地域で実際に何が起きているかを言葉にしておくことをおすすめします。訪問系の事業所が撤退した、送迎に片道40分かかる、通所の利用者が定員を大きく下回っている——こうした具体は、指標の数字と並べてはじめて説得力を持ちます。ニーズ調査や実態調査の結果を圏域別に読み直す作業は、そのまま材料集めになります。読み解き方は別稿で詳しく触れていますので、あわせてご覧ください。

なお、人員配置基準や介護報酬をどこまでどう見直すのかという具体は、今後の介護給付費分科会での議論に委ねられています。現時点で確定しているわけではありませんので、計画本体に細部を書き込むのは、続報を待ってからで構いません。いま必要なのは、自分のまちが議論のテーブルに乗るかどうかを把握しておくことです。

対象にならない自治体にも、関係がある

「うちは大都市部だから」「典型的な一般市町村だから」という自治体にとっても、3類型という考え方は他人事ではありません。どの類型であっても、自分の類型に即した課題設定で計画を書くことが求められるからです。大都市部には大都市部の、急増する後期高齢者と用地・人材の制約という固有の難しさがあります。

さらに、隣接する自治体が特定地域に指定されれば、広域的なサービス調整や都道府県を交えた協議の必要性は確実に増します。自分の圏域だけを見ていては足りない——第10期はそういう性格の計画になりつつある、と受け止めておくとよいでしょう。

おわりに

新しい枠組みが示されるたび、現場の負担が増えるように感じられるのは自然なことだと思います。ただ今回の特定地域の議論は、「人口が減っていく地域でも、かたちを変えてでもサービスを残す」という方向を向いた話です。長く一律の基準に苦しんできた地域にとっては、むしろ道が開ける可能性のある論点だと言えます。

夏はまだ、じっくり数字を見られる時期です。圏域別の人口をもう一度並べ直してみる。その地域で起きていることを一枚のメモにまとめてみる。それだけでも、秋からの議論での立ち位置がずいぶん変わります。年度末までの工程のなかに、この作業を小さく組み込んでおいてください。

「この読み方で合っているだろうか」「うちの地域はどう整理すべきか」——そんな段階のご相談も歓迎です。お問い合わせフォームからお気軽にどうぞ。私たちも、計画づくりに向き合うみなさんを応援しています。

本稿の内容は執筆時点の公開情報に基づきます。基準案は審議の段階にあり、最新の正式な内容は厚生労働省の告示・通知および各審議会の資料をご確認ください。

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