2027年度から始まる第10期介護保険事業計画。国の基本指針案は2026年6月29日の社会保障審議会・介護保険部会で示され、7月の全国担当課長会議を通じて自治体の手元に届いています(正式な告示は年内の見込みです)。つまり策定作業は、もう「これから始める」段階ではなく、「進み具合を点検する」段階に入っています。
この記事では、標準的な工程を確認しながら、夏のいま押さえておきたい点検ポイントと、年度末までの残り工程を整理します。初めて計画策定を担当する方にも、全体の見取り図としてお使いいただければ幸いです。
基本指針は「案」の段階から読み込む
告示は年内の見込みですが、告示を待ってから対応を始めるのでは遅いということは強調しておきたい点です。案の段階で大枠はすでに見えています。いまのうちに第9期からの変更点を読み込んで自分の計画への影響を洗い出しておき、告示後は差分の確認だけで済ませる——これが現実的な進め方です。
基本指針案の柱は、「時間軸」と「地域軸」
では、案の何をまず読むべきか。第10期の基本指針案を貫くのは、ふたつの軸です。
ひとつは時間軸——2040年を見据えた中長期の推計です。第10期は3年間の計画ですが、サービス見込み量は3年先だけを見て弾くのではなく、高齢者人口がピークに向かう2040年頃までの中長期の変化を踏まえて考えることが求められています。「この3年をどう乗り切るか」と同時に、「うちのまちの介護需要は今後15年でどう動くのか」を数字で持っておく必要があります。
もうひとつは地域軸——地域の実情に応じたサービス基盤の整備です。案では地域を、高齢者人口が増え続けサービス需要が急増する大都市部、需要が増加から減少へ転じていく一般市等、すでに高齢者人口が減りサービスの維持・確保が課題になる中山間・人口減少地域という3つの類型でとらえ、それぞれに応じた基盤整備の考え方が示されています。
ここで大事なのは、自分の自治体がどの類型にあたるのかを、データで確認しておくことです。同じ市の中でも、中心部と周辺部で状況が異なる場合は、日常生活圏域ごとに見る視点も必要になります。「増やす計画」なのか「維持する計画」なのか「たたみ方も含めて設計する計画」なのか——出発点の認識がずれると、後の議論がすべてずれます。
年度末から逆算した、市町村の1年
計画完成から逆算すると、標準的な工程はおおむね次のようになります(時期は例年の目安で、自治体の規模や議会日程により前後します)。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 春 | 実態調査・ニーズ調査の結果整理、第9期の点検・評価 |
| 春〜夏 | 策定委員会の立ち上げ・第1回開催、基本指針案の読み込み |
| 秋 | サービス見込み量の推計、保険料水準の粗い試算 |
| 冬 | 計画素案の確定、パブリックコメント |
| 1〜2月 | パブコメ反映、保険料率の最終調整、条例改正案の準備 |
| 3月 | 議会、計画の公表 |
この表を眺めると分かるとおり、秋以降の工程は数珠つなぎです。推計が遅れれば素案が遅れ、素案が遅れればパブコメが遅れ、最後は議会日程という動かせない壁にぶつかります。
夏のいま点検すべきことは、シンプルです。春の工程——調査結果の整理と第9期の点検・評価——が終わっているか。策定委員会の初回が開けているか。もし遅れていても、慌てる必要はありません。秋の推計作業が本格化する前のこの時期なら、まだ十分に挽回できます。優先すべきは、調査結果の整理と第9期の振り返りを先に片づけることです。
つまずきやすいのは、この3つ
ひとつめは、調査結果が「集計して終わり」になってしまうことです。ニーズ調査も実態調査も、集計表を作ることが目的ではありません。第10期で強化すべき施策に「翻訳」できてはじめて意味を持ちます。委員会の初回までに、調査から見えた課題を3〜5点に絞り込んでおくと、その後の議論が具体的になります。
ふたつめは、第9期の点検・評価が形式的になることです。「概ね順調」の羅列では、第10期の目標設定が根拠を失います。むしろ達成できなかった項目こそ丁寧に扱ってください。なぜ達成できなかったのか、そもそも目標自体が適切だったのか。ここでの正直さが、次の計画の質を決めます。
みっつめは、事務局がひとりで抱え込むことです。推計ワークシート、給付分析、委員会資料、関係者調整——計画策定は本来、片手間でこなせる仕事量ではありません。庁内の分担と、困ったときに相談できる相手を、忙しくなる前に確保しておくことをおすすめします。
いま、何から手をつけるか
まずは手元に届いている基本指針案の、第9期からの変更点に印をつけることです。とくに2040年を見据えた中長期推計と、地域類型に応じた基盤整備の記述は、自分のまちに引きつけて読み込んでください。あわせて、第9期計画の進捗状況を整理し、達成できたこと・できなかったことを切り分けておきましょう。これがそのまま第10期の課題リストの土台になります。
検討の視野に入れておきたいテーマもあります。認知症施策推進計画を介護保険事業計画に包含(一体的に策定)するかどうかは、章立てに関わるため早めの判断が必要です。また、保険者機能強化推進交付金で得点できていない項目は、第10期で取り組むべき施策のヒント集になります。この2つは別稿でそれぞれ詳しく解説しています。
そして最後に、年度末までの工程表を議会日程から逆算して1枚にまとめてください。関係者と共有できる工程表があるだけで、この先の1年の見通しがまったく違ってきます。
おわりに
計画策定は3年に一度の大仕事です。裏を返せば、担当者が経験を積みにくい仕事でもあります。前回の担当者は異動し、手元に残るのは前回の計画書と引き継ぎメモだけ——そんな状態で1年を走り切ることも珍しくありません。
それでも、この計画はまちの3年間の介護のかたちを決める、意義の大きな仕事です。いま机に向かっているあなたの作業の先に、住み慣れた地域で暮らし続けられる誰かの毎日があります。どうか抱え込まず、使えるものは使い、聞ける人には聞きながら、進めてください。
「この進め方でよいのか、誰かに聞きたい」——そんな段階のご相談も歓迎です。お問い合わせフォームからお気軽にどうぞ。私たちも、計画づくりに向き合うみなさんを応援しています。
本稿の内容は執筆時点の公開情報に基づきます。最新の正式な内容は、厚生労働省の告示・通知をご確認ください。
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