認知症基本法(共生社会の実現を推進するための認知症基本法)が2024年1月に施行され、市町村には認知症施策推進計画の策定が努力義務として位置づけられました。同年12月には国の認知症施策推進基本計画が閣議決定され、国の考え方も出そろっています。つまり、2027年度から始まる第10期介護保険事業計画は、基本法の体制下で迎える初めての本格的な計画期ということになります。
そこで多くの自治体が直面するのが、「認知症施策推進計画を介護保険事業計画に包含するのか、それとも別立てで作るのか」という論点です。この記事では、その判断の考え方と、包含する場合の盛り込み方を整理します。
まず数字から——2040年、認知症とMCIであわせて約1,200万人
厚生労働省の研究班が2024年に公表した最新の将来推計によると、認知症の高齢者は2022年の約443万人から、2040年には約584万人へ増える見込みです。これは65歳以上の約7人に1人にあたります。さらに、認知症の前段階とされる軽度認知障害(MCI)は2040年に約613万人と推計され、あわせて約1,200万人——高齢者のおよそ3人に1人という規模になります。
この数字は、従来の推計(2040年に約802万人)から大きく下方修正されたものです。生活習慣病管理の改善や健康意識の高まりで、認知機能低下の進行が抑えられていると分析されています。明るい材料ではありますが、それでも「高齢者の3人に1人」という規模感が変わるわけではありません。
そして計画づくりの観点で強調したいのは、全国値を眺めるだけでなく、保険者として自分の自治体の将来推計を持つことです。年齢階級別の有病率を自分のまちの将来人口に当てはめれば、年次ごと・圏域ごとのおおよその規模感がつかめます。この数字があるかないかで、チームオレンジの整備目標、見守り体制の規模、相談窓口の人員計画——第10期に書く施策の説得力がまったく変わります。介護保険事業計画本体で求められる2040年を見据えた中長期推計と同じ時間軸で認知症の人の数も推計しておけば、計画全体の整合もとれます。
選択肢を正しく理解する
市町村認知症施策推進計画は努力義務です。策定しないという選択も制度上はあり得ます。ただ、国の基本計画が示されたいま、何らかの形で応答しておくことが望ましい状況といえるでしょう。
策定する場合の道は、大きくふたつあります。単独の計画として作る方法と、介護保険事業計画などの既存計画と一体的に策定する方法です。第10期の計画づくりと時期が重なるいまは、一体的策定を検討する絶好のタイミングです。新たに計画をひとつ増やすのではなく、いま作ろうとしている計画に組み込めるなら、事務負担の面でも進行管理の面でも合理的です。
判断のポイントは、章立てに関わるため、策定委員会が本格化する前に方針を固めておくことです。途中から「やはり包含します」となると、構成の組み替えで余計な手戻りが生じます。
包含するなら、「章をひとつ置く」だけでは足りない
介護保険事業計画に包含する場合、従来からある「認知症施策の推進」の章をそのまま置くだけでは、基本法が求める水準に届きません。少なくとも、次の点を意識した作り込みが必要です。
まず、計画の基調に「新しい認知症観」を据えることです。認知症になったら終わり、ではなく、なってからも希望を持って自分らしく暮らし続けられる——国の基本計画が掲げるこの考え方を、章の冒頭で明確に示します。
次に、本人参画のプロセスです。計画づくりの過程で認知症の本人や家族の声を聴いたことが分かる構成にしましょう。本人ミーティングやヒアリングの実施は、それ自体が基本法の理念の実践になります。
さらに、共生社会の視点です。介護サービスの枠にとどまらず、地域づくり、商店や交通、金融機関との連携など、生活全般に関わる施策との接続を書き込むことで、認知症の章が「介護の一部」から「まちづくりの計画」へと広がります。
最後に、実務的ですが大切なこととして、「本章が市町村認知症施策推進計画に相当する」と計画内に明記しておくことです。対外的にも、後々の点検の場面でも、位置づけが明快になります。
新たな取り組みは、背伸びしすぎず
第10期期間に向けた取り組みの検討では、本人発信の場づくり(本人ミーティングや希望大使との連携)、チームオレンジのような早期からの伴走支援、店舗・交通・金融機関と連携した認知症バリアフリー、若年性認知症の相談窓口と就労支援の接続、そして独居・老老世帯の増加を見据えた見守りや意思決定支援などが候補になります。
すべてを一度にやる必要はありません。自分のまちの実情に合うものを2〜3選び、3年間で確実に形にする方が、網羅的に並べて何も動かないより、はるかに価値があります。
おわりに
認知症施策は、数字で語れる部分が少なく、計画に書きにくい分野です。しかし、高齢化が進むなかで認知症とともに生きる住民が増えていくことは確実で、行方不明や消費者被害、介護家族の離職といったリスクは、備えの有無によって数年後の現れ方が変わります。
だからこそ、「発症したら支える」で終わらせず、早期からの伴走、住み慣れた生活の継続、本人の声を起点にした施策づくりという視点で、できるところから取り組んでいきましょう。第10期は、その最初の一歩を計画に刻むちょうどよい機会です。
方針の整理段階からのご相談も歓迎です。お問い合わせフォームからどうぞ。計画づくりに向き合うみなさんを、私たちも応援しています。
本稿の内容は執筆時点の公開情報に基づきます。最新の正式な内容は、国の基本計画・通知をご確認ください。
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