2026年6月29日の社会保障審議会介護保険部会に示された第10期介護保険事業(支援)計画の基本指針案には、これまであまり正面から扱われてこなかった項目が並んでいます。そのひとつが、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)といった「高齢者向け住まい」の状況把握です。入居定員や入居者の要介護度を踏まえて、介護サービス基盤を考える——文章にすると当たり前のことのようですが、実際にやろうとすると、庁内のどの課がどこまで数字を持っているのかという話から始まることになります。夏の終わりのいま、秋以降の作業を見通すうえで整理しておきたい論点です。
なぜ「住まい」が計画の論点になるのか
高齢者向け住まいは、介護保険の施設サービスではありません。しかし住んでいる方の多くは要支援・要介護の認定を受けており、訪問介護や通所介護といった居宅サービスを、住まいの側から利用しています。つまり、まちに何戸の住まいがあり、そこに誰が住んでいるかは、居宅サービスの見込み量にそのまま効いてくる要素です。
規模も小さくありません。高齢者住宅協会の集計によれば、サ高住の登録は2026年3月末時点で8,000件を超え、戸数では29万戸台に達しています。ここに住宅型有料老人ホームが加わります。一つの市に数百戸、あるいは千戸単位で存在する自治体も珍しくないはずです。この規模が計画の推計に反映されていなければ、見込み量は実態からずれます。逆にいえば、これまでずれていた分を第10期で埋めにいく、という話でもあります。
数字は「持っている課」がばらばら
実務でつまずきやすいのが、情報の所在です。サ高住の登録は都道府県や政令市などの登録主体が扱い、有料老人ホームの届出は別の窓口、入居者の要介護度は介護保険部門のデータ、そして住宅施策としての全体像は住宅部局が持っています。介護保険担当課だけで完結する話ではない、というのが最初の実感になるはずです。
まずは、自分のまちにある住まいの一覧をつくるところからでよいと思います。種別、所在地、定員、開設時期。ここまでは公開情報と庁内の届出情報である程度まで埋まります。難しいのはその先、実際の入居者数と要介護度の分布です。ここは事業者への照会が必要になる部分で、依頼の仕方や時期によって回収率が大きく変わります。第10期の推計に使うのであれば、逆算して秋のうちに設計しておきたいところです。
住宅部局と話す機会が、制度の側からも増えている
基本指針案では、改正住宅セーフティネット法への対応として、住宅部局と福祉部局の連携にも触れられています。同法は2025年10月に施行され、安否確認や福祉サービスへのつなぎを備えた「居住サポート住宅」の仕組みが設けられました。単身の高齢者が住まいを見つけにくいという課題に、住宅政策の側から手を打つものです。
介護保険の計画づくりと、住宅セーフティネットの取り組みは、これまで別々の会議体で進むことが多かったのではないでしょうか。第10期は、その両方が同じ「高齢者の暮らす場所をどう確保するか」という問いに向き合う期になります。連携が指針に書かれているうちは、庁内で声をかける口実になります。計画策定を機に、住宅部局の担当者と一度顔を合わせておくだけでも、後の作業がずいぶん楽になるはずです。
地域類型の議論とセットで読む
基本指針案では、地域を「中山間・人口減少地域」「大都市部」「一般市等」に分けて考える枠組みも示されています。この地域類型と住まいの話は、実は同じ絵の裏表です。大都市部では住まいの供給が需要の受け皿として厚みを持つ一方、人口減少地域ではそもそも住まいの選択肢が限られるという現実があります。同じ「把握」でも、把握した結果から導かれる打ち手はまったく違ってきます。
地域類型そのものについては「特定地域」という新しい枠組みで整理しました。あわせてお読みいただくと、第10期の推計をどの粒度で組み立てるかのイメージが持ちやすいと思います。
いま手をつけられること
基本指針は年度内の告示に向けて、これから細部が固まっていく段階です。確定していない部分を待つ時間はありますが、手元の一覧づくりは、指針の細部が決まらなくても進められます。所在と定員を押さえておけば、告示後に求められる集計の形が見えたとき、そこに乗せるだけで済みます。
反対に、事業者への照会を年明けから始めるとなると、回答を待つ間に推計の作業が止まります。策定作業の山場と重なる時期でもあります。いま整理できるものから整理しておく——地味ですが、第10期の作業全体を通じて、これがいちばん効きます。夏の進捗点検の一項目として、住まいの棚卸しを加えてみてはいかがでしょうか。
おわりに
高齢者向け住まいの把握は、数字を集める作業のようでいて、実際は「このまちで高齢者はどこに住むのか」を庁内で共有し直す作業です。手間はかかりますが、そこで見えたものは計画書の推計欄だけでなく、日々の相談対応や事業者との関係づくりにも生きてきます。第10期の準備で忙しい時期ですが、無理のない範囲で一歩ずつ進めていただければと思います。
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本稿の内容は執筆時点の公開情報に基づきます。基本指針は検討中の段階であり、最終的な内容は厚生労働省の告示・通知をご確認ください。
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