2026年9月3日、社会保障審議会の介護給付費分科会(第264回)が開かれ、令和9年度の介護報酬改定に向けた論点が5つのテーマにわたって示されました。厚生労働省が公表している配布資料の構成そのままに並べると、①認知症への対応力強化、②医療・介護連携および人生の最終段階の医療・介護、③科学的介護情報システム(LIFE)、④口腔・栄養、一体的取組、⑤多床室の室料負担——この5本です。

報酬改定は、市町村の計画担当の方からすると「事業者側の話」に見えやすい議題だと思います。ただ、今回に限っては少し事情が違います。報酬改定も、第10期介護保険事業計画も、始まるのは同じ2027年度(令和9年度)です。同じ日に走り出す二つの制度変更が、いま別々の会議体で並行して議論されている——そういう秋だ、というところから整理してみます。

二つの改定が、同じ年度に並ぶということ

市町村の計画づくりの工程は、秋にニーズ調査の分析と計画案の骨子、冬から年明けにかけて計画案とパブリックコメント、そして2月前後の議会——というのが標準的な流れです(工程の全体像はこちら)。一方の報酬改定は、分科会での論点整理がこの秋から冬にかけて進み、例年、改定率は年末の予算編成の過程で示され、具体的な単位数や算定要件が固まるのは年明け以降という段取りをたどってきました。

つまり、市町村が計画案と保険料の議論を進めている最中に、報酬改定の中身がまだ確定していないという時期が生まれます。これは第9期のときも同じ構図でしたので、驚くような話ではありません。ただ、そうであるからこそ、「単価が決まらなくても進められる作業」と「単価が決まらないと確定しない作業」を、あらかじめ分けておくことが効いてきます。サービス種類ごとの利用量の見込み、圏域ごとの人口と認定者数の推移、地域支援事業の組み立て——このあたりは報酬改定の結論を待つ必要がありません。逆に、給付費の総額と保険料段階の最終確定は、どうしても最後に回ります。先に動かせるところを先に動かしておく。年度末の詰まり方が、それでずいぶん変わります。

認知症——計画の側にも同じ数字が置かれている

5つの論点のうち、市町村の計画といちばん近いのは認知症への対応力強化です。分科会の資料では、認知症高齢者が令和7年の約471万人から、令和22年には約584万人に増えるという推計が示され、あわせて介護サービスの類型によって利用者の約3〜7割を認知症の方が占めているという現状が整理されました。委員からは、加算の算定要件や研修の負担軽減を求める意見が相次いだと報じられています。

ここで押さえておきたいのは、同じ数字が、市町村側の計画の前提にもなっていることです。認知症施策推進基本計画を受けて、市町村は認知症施策推進計画を定めるよう努めることとされており、第10期の介護保険事業計画とどう束ねるかは多くの自治体で論点になっています(この整理は以前の回で書きました)。報酬側で対応力強化が進めば、地域の事業者がどこまで受け止められるかという話になり、それは計画に書く「提供体制の確保」の中身そのものです。分科会の議論を、事業者向けのニュースとしてではなく、自分の計画の前提が補強される材料として読んでおくと、審議会での説明にも使えます。

多床室の室料負担——窓口にいちばん近い論点

5つのうち、住民対応の窓口に直接つながるのが多床室の室料負担です。経緯を簡単に振り返っておくと、令和6年度の報酬改定で、介護老人保健施設の「その他型」「療養型」と、Ⅱ型の介護医療院を対象に、月額8,000円相当の室料負担が導入され、2025年(令和7年)8月から施行されています。今回の分科会では、この対象をさらに広げるかどうかが論点として示されました。報道によれば、支払側は拡大を求め、サービス提供側は慎重な立場を示しており、意見の隔たりは小さくないようです。

市町村にとって重要なのは、室料負担の見直しが、補足給付(特定入所者介護サービス費)の基準費用額と連動して動いてきたという点です。2025年8月には補足給付の側にも見直しが入り、窓口ではその説明にあたられた方も多いはずです(そのときの整理はこちら)。今回の議論がどう着地するかはまだ分かりませんが、もし対象が広がれば、負担の説明と申請の受付は、再び市町村の窓口が担うことになります。年明け以降、動きが見えた段階ですぐ動けるよう、前回の説明資料や庁内の連絡体制を「探せる場所」に置いておくだけでも、次の負担はだいぶ軽くなります。

LIFE・口腔・栄養——データと連携の話は、地続きで読める

残る三つ、医療・介護連携と人生の最終段階の医療・介護、LIFE、口腔・栄養の一体的取組は、報酬の加算をどう組み立てるかという議論が中心です。ただ、いずれも市町村側の施策と地続きでもあります。医療・介護連携は在宅医療・介護連携推進事業として地域支援事業に位置づけられていますし、口腔・栄養は高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施が走っています。LIFEについても、委員から入力負担の軽減を求める声が上がったと伝えられており、現場の手間をどう減らすかという課題意識は、市町村が事業者と向き合う場面とそのまま重なります。

この三つについては、いま細かく追いかける必要はないと思います。ただ、計画の「医療・介護連携」「介護予防」の章を書くときに、報酬側でも同じ方向の議論が進んでいることを一行添えておく——それだけで、計画の記述に厚みが出ます。国の議論と地域の施策が別々のものとして並んでいる計画より、同じ方向を向いていることが読み取れる計画のほうが、審議会でも住民説明でも通りがよくなります。

いま確定していること、していないこと

混ざりやすいところなので、線を引いておきます。確定しているのは、令和6年度改定で導入され2025年8月に施行された室料負担の内容までです。今回示された5つのテーマは、あくまで論点であって、決まったものではありません。改定率も、単位数も、算定要件も、これから議論と調整を経て固まっていきます。

ですので、計画本体に報酬改定の中身を書き込むのは、まだ早いと考えています。書くとすれば、「令和9年度の報酬改定の動向を踏まえて対応する」といった、方向だけを示す一文で十分です。細かく書き込んでしまうと、年明けに結論が変わったときに計画のほうを直すことになり、かえって手間が増えます。基本指針そのものについても、必須記載事項の組み替えが案として示された段階であることは、あわせて押さえておいてください。

おわりに

報酬改定と計画策定は、担当課も、会議体も、参照する資料も別々です。日々の業務のなかで、両方を同じ視野に入れておくのは正直むずかしいと思います。それでも、2027年4月には、この二つが同時に地域へ着地します。事業者にとっては単価が変わる日であり、住民にとっては負担やサービスの受け方が変わりうる日であり、市町村にとっては新しい計画の初年度が始まる日です。

いまの時期にできるのは、報酬側の議論を、月に一度でいいので眺めておくことくらいかもしれません。それでも、年明けに結論が出たときに「ああ、あの論点か」と分かる状態でいられるかどうかは、その先の動きの速さに効いてきます。秋のいまは、計画の骨格をつくることに集中しつつ、報酬側には目線だけ置いておく。そのくらいの構えが、ちょうどよいのではないかと思います。

「この論点はうちの計画のどこに関わるだろう」「窓口で聞かれたら、どこまで答えられるだろう」——そうした読み解きの段階でのご意見・ご質問も歓迎です。お問い合わせフォームからお気軽にお寄せください。計画づくりに向き合うみなさんを、私たちも応援しています。

本稿の内容は執筆時点の公開情報に基づきます。ご紹介した5つの論点は、2026年9月3日の社会保障審議会介護給付費分科会(第264回)に示されたものであり、令和9年度介護報酬改定の内容が決定したものではありません。最新の正式な内容は厚生労働省の告示・通知および各審議会の資料をご確認ください。

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