2026年8月1日から、介護保険施設やショートステイを利用する低所得の方の食費・居住費について、負担限度額と基準費用額が引き上げられました。いわゆる補足給付(特定入所者介護サービス費)の見直しで、根拠は令和8年厚生労働省告示第88号、実務上の周知は同年5月29日付の介護保険最新情報Vol.1506で行われています。

制度改正としては決して大きな部類ではありません。ただ、施行日が「毎年8月1日」という負担限度額認定の更新タイミングとぴったり重なっていることが、現場にとってはやっかいです。更新の山と改正の説明が同時に来る。まさにいま、窓口でその只中にいる担当課も多いと思います。

何が、どれだけ変わったか

変更は大きく3点です。ひとつめは食費の基準費用額で、日額1,445円から1,545円に引き上げられました。これは補足給付の計算の土台となる額で、近年の食材費・人件費の上昇を反映したものです。

ふたつめは負担限度額そのもので、影響を受けるのは第3段階①・②です。第3段階①の食費は日額650円から680円へ(30円増)、第3段階②の食費は日額1,360円から1,420円へ(60円増)。ショートステイの食費も同じ幅で動いています。居住費については、第3段階②を中心に日額100円の引上げとなりました。月額に直すと、食費で1,000円弱〜2,000円弱、居住費で3,000円程度の増です。第1段階・第2段階の負担限度額は据え置かれています。

みっつめは見落とされがちですが実務上いちばん効く変更で、段階を分ける所得基準の引上げです。年金収入等の合計額の境目が、これまでの80.9万円から82.65万円になりました。つまり、この間にいる方は負担が重い側の段階から軽い側の段階に移ることになります。負担増の話だけが伝わりがちな改正ですが、境目付近の方にとってはむしろ負担が下がる可能性がある——この点は、窓口でぜひ添えていただきたいところです。

更新事務の山と、どう向き合うか

負担限度額認定証の有効期間は例年どおり8月1日から翌年7月31日までで、7月末で切れた認定を継続するには更新申請が必要です。多くの自治体が案内しているとおり、8月分から適用を受けるには8月中に申請を済ませてもらう必要があり、9月以降の申請では原則として申請月からの適用になります。改正の説明に気を取られて、この一番大事な期限の周知が薄くなっていないか、いま一度確かめておきたいところです。

問い合わせの入り口は、住民ご本人だけではありません。施設の請求担当者、ケアマネジャー、ご家族——それぞれ知りたいことが違います。施設側は請求システムの単価設定と8月分の請求処理を、ケアマネジャーは担当利用者の自己負担がいくら変わるかを、ご家族は「なぜ上がったのか」を知りたい。同じ通知文を回すだけでは、どの相手にも半分しか答えられません。想定問答を相手別に一枚ずつ作っておくと、窓口と電話の負担がずいぶん違ってきます。

説明の順番にもコツがあります。いきなり金額表を出すより、「施設が実際に負担している食費・居住費の実勢に、公定の額が近づいた」という前提から入るほうが、納得は得られやすいと感じます。そのうえで、自分がどの段階に当たるのか、いくら変わるのかを個別に確かめる。段階判定は預貯金等の要件も絡むため、一般論での即答は避け、申請に基づく判定であることを丁寧に伝えるのが安全です。

第10期計画への含み

この改正は、窓口だけの話で終わりません。補足給付は特定入所者介護サービス費として給付費に計上されるため、基準費用額と負担限度額が動けば、第10期介護保険事業計画(2027〜2029年度)の給付費推計の前提が変わります。いま推計作業の途中にある自治体は、施設サービスの見込み量に掛ける単価の考え方に、8月改正が反映されているかを一度確認しておいてください。額としては大きくなくとも、「古い前提のまま推計を積み上げてしまった」という取り違えは、あとから直すのが一番やっかいです。

もうひとつ、視野に入れておきたいのが議論の方向性です。補足給付の見直しは、給付と負担のあり方を見直す一連の検討のなかから出てきたものです。社会保障審議会・介護保険部会では、利用者負担2割の対象範囲、多床室の室料負担、ケアマネジメントの費用負担といった論点が引き続きテーブルに載っています。第10期の基本指針案は2026年6月29日の同部会(第135回)で示され、年内の告示が見込まれる段取りです。今回の改正は、この流れの一里塚として位置づけて読んでおくとよいと思います。

計画本文に何をどこまで書くか迷う場面もあるでしょう。確定した事項は前提として織り込み、検討途上の論点は「国の動向を注視し、必要に応じて対応する」にとどめる——この線引きは、これまでの回でも触れてきた考え方と同じです。年度末までの工程のなかで、推計の前提を点検する時間をどこに置くか、決めておくことをおすすめします。

あわせて確かめておきたいこと

ひとつは庁内の様式・システムの更新漏れです。認定証の記載額、申請書に添える案内文、ホームページの金額表、窓口配布のリーフレット——参照する場所が多いほど、どこかが古いまま残ります。改正のたびに同じことが起きるのであれば、「金額を書いている場所の一覧」を一度つくって台帳にしておくのが結局いちばん早い解決策です。

もうひとつは境目付近の方への声かけです。所得基準が82.65万円に上がったことで新たに軽い段階に該当しうる方は、こちらから案内しなければ気づかないままになりかねません。制度は申請主義ですが、届けるところまでが実務だと考えると、対象となりうる方の抽出は検討する価値のある作業です。

おわりに

8月は、更新事務と改正対応が重なる、介護保険担当課にとって最も密度の高い時期のひとつです。加えて第10期計画の推計作業も進んでいる。正直なところ、落ち着いて制度改正を読み込む余裕などない、というのが実情ではないでしょうか。

それでも、今回の改正は「負担が上がる人」と「負担が下がる人」の両方を生むものです。前者への説明はどうしても丁寧になりますが、後者に気づいてもらう手立ては、意識しないと抜け落ちます。窓口の一言、案内文の一行が、そのまま住民の暮らしに届く。大変な時期ですが、そこは動かしがたく価値のある仕事だと思います。

「うちの推計の前提はこれで合っているだろうか」「住民説明の書きぶりを整理したい」——そんな段階のご相談も歓迎です。お問い合わせフォームからお気軽にどうぞ。私たちも、現場のみなさんを応援しています。

本稿の内容は執筆時点の公開情報に基づきます。金額・所得基準・適用の取扱いは、厚生労働省の告示・通知(介護保険最新情報Vol.1506ほか)および各保険者の案内をご確認ください。段階判定は預貯金等の要件を含むため、個別の該当可否は申請に基づく判定によります。

← コラム一覧へ戻る