毎年当たり前のように受けている会社の健康診断。その検査項目が、2027年4月1日から見直されます。
根拠になるのは、2026年4月28日に公布された「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令」と、同じ日に出された厚生労働省労働基準局長の通達です。公布からすでに半年近く経っていますが、施行が来年度なので、まだ社内で話題になっていない会社も多いのではないでしょうか。ちょうど秋から冬にかけては、来年度の健診機関との契約や見積もりを相談する時期です。今回は、改正の中身と、その相談の前に押さえておきたいことを整理します。
変わるのは、大きく三つ
今回の改正で変わる点は、大きく分けて三つあります。
一つ目は、血清クレアチニン検査が加わることです。対象は、雇入時の健康診断、定期健康診断、特定業務従事者の健康診断、海外派遣労働者の健康診断。血液をとって腎臓の働きを調べる検査で、結果からはeGFR(推算糸球体ろ過量)という、腎臓がどれだけ老廃物をろ過できているかの目安が計算されます。なお、40歳未満の人については、医師が必要でないと認めるときは省略できるとされています。
二つ目は、喀痰(かくたん)検査がなくなることです。これまで、胸部エックス線検査の結果などに応じて行われていた、たんを調べる検査が、定期健康診断などの項目から削除されます。
三つ目は、肝機能検査の名前が変わることです。国際的な学会の勧告にあわせて、GOTはAST、GPTはALT、γ-GTPはγ-GTという名称に改められます。検査の中身が変わるわけではありません。
このほか、これらにあわせて健康診断個人票の様式や、常時50人以上の事業場が労働基準監督署に提出している定期健康診断結果報告の様式も変わります。施行は2027年4月1日です。
なぜ「腎臓」なのか——長時間労働との関係
今回の改正でいちばん大きいのは、やはり血清クレアチニン検査の追加でしょう。通達では、その趣旨を長時間労働と慢性腎臓病の発症リスクとの関係、そしてこれまでの健診項目では把握しきれない腎機能の低下を、血清クレアチニン検査で把握できることにあると説明しています。追加された検査は、長時間労働による発症リスクがある慢性腎臓病を調べるものだと、はっきり位置づけられているのです。
慢性腎臓病は、かなり進むまで自覚症状が出にくい病気として知られています。尿にたんぱくが出ていなくても、腎臓の働きが少しずつ落ちている人はいます。そうした人に早めに気づき、働き方の調整や受診につなげる——健診の本来の役割に沿った見直しだと言えます。
先日のコラムで取り上げた長時間労働の監督指導とも、実はつながっている話です。労働時間の管理と、健診の結果の見方が、これまで以上に一本の線で結ばれていく。そう受け止めておくとよいと思います。
喀痰検査がなくなると、何に気をつけるか
喀痰検査の廃止は、「手間が一つ減る」という話にとどまりません。通達では、胸部エックス線検査で結核が疑われる人には、健診機関での喀痰検査を待たずに、速やかに医療機関の受診を勧めることが求められています。検査を省くかわりに、受診につなげるスピードを上げるという考え方です。
もう一つ、個人情報の扱いにも変化があります。健康診断の結果は、個人情報保護法でいう「要配慮個人情報」です。法令で定められた健診項目であれば、事業者は結果を受け取ることができますが、施行後の喀痰検査は法令上の健診項目ではなくなるため、健診機関がオプションなどで実施した場合でも、その結果を会社が受け取るには、あらかじめ本人の同意が必要になると通達は注意を促しています。健診機関から届く結果の範囲を、一度確認しておくと安心です。
来年度の健診契約で、確かめておきたいこと
中小企業では、健診機関や協会けんぽの健診をそのまま利用している会社がほとんどだと思います。項目の変更自体は健診機関側で対応が進むはずですが、会社として確かめておきたい点がいくつかあります。
第一に、2027年4月以降に行う健診で、血清クレアチニン検査が含まれているかです。年度をまたいで健診の時期が決まっている会社や、年に何回かに分けて受診している会社は特に、4月以降の回から項目が変わることを健診機関と共有しておくと、行き違いが防げます。あわせて、費用がどう変わるのかも見積もりの段階で確認しておきましょう。
第二に、40歳未満の省略をどう扱うかです。省略は「医師が必要でないと認めるとき」に限られるので、会社が一律に「若い人は省く」と決めるものではありません。健診機関や産業医とどう判断するのかを事前にすり合わせておくことが大切です。
第三に、結果を受け取ったあとの流れです。健診結果に異常の所見があれば、医師の意見を聴き、必要に応じて就業上の措置を考えるのは、これまでと同じく事業者の義務です。腎機能という新しい物差しが加わる以上、「eGFRの値が気になる人がいたら、誰に相談するか」を先に決めておきたいところです。産業医がいない50人未満の事業場でも、地域産業保健センター(地域窓口)で、健診結果についての医師の意見聴取などを無料で相談できます。
第四に、社内の書類や説明の言葉をそろえることです。GOTやγ-GTPといった旧名称に慣れている人は多いので、通達でも、必要に応じて新しい名称と旧い名称を併記して結果を通知しても差し支えないとされています。健康管理の台帳や、社内で配っている健診結果の読み方などがあれば、この機会に更新しておくとよいでしょう。
あわせて知っておきたい「女性の健康」の問診
健診の見直しの議論では、もう一つの動きもありました。月経困難症や月経前症候群、更年期症状など、女性特有の健康課題についての質問を、一般健康診断の問診に加えることが適当とされ、厚生労働省は2026年1月に、事業者向け・健診機関向けのマニュアルを公表しています。
こちらは、事業者に義務づけられたものではなく、働く人本人が回答するかどうかも任意です。また、個人の回答内容が事業者に直接提供されるものではありません。目的は、働く人自身が健康課題に気づき、必要に応じて専門の医療機関の受診や、職場での相談につなげることにあります。会社の役割は、回答を集めることではなく、相談しやすい窓口や、休みやすい・受診しやすい仕組みを整えることだと言えるでしょう。健診機関によって対応の状況は異なるので、来年度の契約の際に、あわせて聞いてみるのもよいと思います。
健康経営の視点で見ると
健康経営の取り組みでは、健診を「受けさせて終わり」にせず、結果をもとに次の一手を考えることが求められます。以前のコラム「健康診断『受けっぱなし』をなくす」でもお伝えしたとおり、受診率と事後措置は、健康経営優良法人の認定でも問われる基本中の基本です。
今回の改正は、その「結果をもとに考える」材料が一つ増える、ということでもあります。労働時間のデータと健診の結果を並べて見ることができれば、長時間労働が続いている部署で腎機能の所見が増えていないか、といった気づきにもつながります。来年度から集まり始めるデータを、どう活かすかを今のうちに考えておくと、健康経営の取り組みに一段深みが出るはずです。
おわりに
健康診断の項目が変わる、と聞くと、手続きが増えて大変そうに感じるかもしれません。けれど、会社として実際にやることは、来年度の健診機関との打ち合わせで、いくつかの点を確かめておくことが中心です。半年前の今から動いておけば、慌てることはまずありません。
そして、この改正の根っこにあるのは、「気づきにくい不調に、早く気づけるようにしよう」という、ごく真っ当な考え方です。検査が一つ増えることを、従業員の健康をもう一歩深く見守るきっかけとして、前向きに受け止めていただけたらと思います。
「健診結果をどう管理すればいいか分からない」「事後措置の流れを整えたい」——そんなご相談も歓迎です。お問い合わせフォームからお気軽にどうぞ。働く人の健康を大切にする会社を、私たちも応援しています。
本稿の内容は執筆時点の公開情報に基づきます。改正内容は「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令」(令和8年厚生労働省令第89号、2026年4月28日公布、2027年4月1日施行)および厚生労働省労働基準局長通達「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令の施行等について」(基発0428第9号、2026年4月28日)に基づきます。女性特有の健康課題に関する問診は、厚生労働省が2026年1月に公表した事業者向け・健診機関向けのマニュアル等に基づきます。個別の対応にあたっては、ご利用の健診機関、所轄の労働基準監督署、または各都道府県の産業保健総合支援センター・地域産業保健センターにご確認ください。
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