「健康経営、御社でも取り組まれてはいかがですか」——そんな言葉を、これからは取引先の金融機関の担当者や、商工会議所・商工会の経営指導員から聞く機会が増えるかもしれません。
経済産業省は2026年8月31日、「中小企業支援者向け健康経営の推進支援ハンドブック」を作成・公表しました。読者として想定されているのは中小企業そのものではなく、地域の金融機関、商工会議所・商工会、保険者、自治体など、中小企業を支える側の機関や専門家です。そして経産省は、9月上旬以降、このハンドブックを全国の支援機関に電子媒体で送付する予定としています。秋のいま、ちょうど各地の支援機関の手元に届き始めている時期です。
今回は、このハンドブックが何を意味するのか、身近な支援機関から健康経営の話が届いたときにどう受け止めればよいのかを整理します。あわせて、締切が迫る健康経営優良法人2027(中小規模法人部門)の申請についても、最後に確かめておきたいことをまとめます。
なぜ「支援する側」向けなのか
経産省は、ハンドブックをつくった背景として、中小企業では人材や時間のリソースが足りず、健康経営に関する情報やノウハウが得られないために、取り組みが進んでいない企業が少なくないことを挙げています。
確かに、従業員が数人から数十人の会社で、健康経営の制度や認定要件を一から調べる時間をとるのは簡単ではありません。社長が総務も経理も兼ねている会社なら、なおさらです。そこで国は、中小企業がふだんから接点を持っている相手——取引のある金融機関や、地元の商工団体——に、健康経営の「伝え手」になってもらおうと考えたわけです。
ハンドブックには、健康経営の意義や効果、支援のポイントに加えて、企業の事例、活用できるガイドやツール、相談先、補助金などの支援施策が整理されていると案内されています。企業の経営課題を切り口に、関心を持ってもらうところから具体的な取り組みの支援までを、支援者が順を追って進められるように組み立てられています。
話が届いたら、「経営の相談」として受け止める
支援機関から健康経営の話が出たとき、「また何かの営業かな」と身構えてしまう方もいるかもしれません。けれど、ハンドブックのねらいが「企業の経営課題を切り口にする」ことにある以上、これは人手不足や採用、従業員の定着といった、経営の悩みを話す入口として使えるものです。
たとえば、「最近、若手がなかなか定着しない」「ベテランが体調を崩して現場が回らなかった」——そういった困りごとを、健康の話と切り離さずに相談してみる。健康経営は、そうした悩みに対して従業員の健康という側面から手を打つ考え方です。支援者の側も、ハンドブックを手に「どこから手をつけるとよいか」を一緒に考える準備ができつつあります。
取引のある金融機関であれば、健康経営に取り組む企業向けの融資メニューや優遇があるかどうかも、あわせて聞いてみてよいでしょう。こうした制度の有無や条件は金融機関ごとに異なるので、「うちの取引先ではどうか」を直接確かめるのがいちばん確実です。また、以前のコラムで取り上げた持続化補助金の「健康経営優良法人加点」のように、認定が補助金の審査で考慮される場面も出てきています。商工会議所・商工会は持続化補助金の窓口にもなっていますから、補助金の相談のついでに健康経営の話をしてみる、というのも自然な流れです。
相談先は、ひとつに絞らなくていい
健康経営の相談先は、実はいくつもあります。協会けんぽや健康保険組合などの保険者は、健康経営優良法人の申請の前提となる「健康宣言」の窓口です。健診結果の見方や事後措置について医師の意見を聴きたいときは、50人未満の事業場なら地域産業保健センター(地域窓口)を無料で利用できます。そこに、金融機関や商工団体という「経営の相談相手」が加わる、というのが今回の動きです。
大切なのは、それぞれの得意分野を知って使い分けることです。健康づくりの中身は保険者や産業保健の専門家に、経営とのつなげ方や資金面は金融機関や商工団体に。ひとつの窓口ですべてを解決しようとせず、「この話はあそこに聞けばいい」という地図を持っておくと、取り組みはぐっと進めやすくなります。
健康経営優良法人2027、締切は10月16日(金)17時
ここで、目の前のスケジュールも確認しておきましょう。健康経営優良法人2027(中小規模法人部門)の申請締切は、2026年10月16日(金)の17時です。この記事の公開日から数えると、残りは10日ほどしかありません。
申請を予定している会社は、次の点を改めて確かめておくと安心です。まず、保険者の健康宣言事業への参加が済んでいるか。これは申請の前提条件とされています。次に、申請用IDとパスワードが手元にあるか。担当者が替わって引き継ぎが途切れていないか、念のため確認しておきましょう。そして、申請料(1件15,000円、税込16,500円)の手続きと、申請書の最終確認を社内の誰が、いつ行うか。締切当日は事務局のサイトが混み合うことも考えられますから、数日の余裕を持って提出を終える計画にしておくのが賢明です。
なお、健康経営優良法人の申請は、申請する法人自身が行う手続きです。認定されるかどうかは事務局の審査によるもので、事前に保証されるものではありません。
今年は間に合わない、という会社へ
「健康宣言もまだだし、今年は無理だ」という会社もあると思います。それはそれで、まったく問題ありません。むしろ、締切に追われずに準備できる一年が手に入ったと考えることもできます。
次の申請までの時間を、健康宣言への参加、健診受診率の確認、事後措置の流れづくりといった土台づくりに使えば、形だけ整えた申請よりもずっと中身のある取り組みになります。そのときに、今回のハンドブックを受け取った取引先の金融機関や商工会議所・商工会に「来年に向けて何から始めればいいか」と声をかけてみる——それが、もっとも手軽な最初の一歩かもしれません。これから始める方は、「中小企業の健康経営、はじめの一歩」もあわせてご覧ください。
おわりに
健康経営は、大企業だけのものでも、認定を取るためだけのものでもありません。国が支援機関向けのハンドブックまで用意したのは、中小企業にこそ、従業員の健康を経営の力に変えてほしいという期待の表れだと受け止めています。
身近な相談相手が増えるのは、取り組む会社にとって心強いことです。締切を目前に最後の確認をしている会社も、来年に向けてこれから動き出す会社も、ひとりで抱え込まず、使える窓口を上手に使って進めていただけたらと思います。
「何から手をつければいいか整理したい」「社内の健康管理の状況を棚卸ししたい」——そんなご相談も歓迎です。お問い合わせフォームからお気軽にどうぞ。従業員の健康を大切にする会社を、私たちも応援しています。
本稿の内容は執筆時点(2026年10月7日)の公開情報に基づきます。ハンドブックについては経済産業省のニュースリリース「健康経営の中小企業への裾野拡大に向けて『中小企業支援者向け健康経営の推進支援ハンドブック』を作成しました」(2026年8月31日)に、申請期間・申請料・申請の前提条件については「ACTION!健康経営」ポータルサイトの中小規模法人部門の案内に基づきます。金融機関の融資制度や補助金の取扱いは機関・公募回ごとに異なります。申請スケジュールや認定要件の詳細は、必ず事務局の最新の公表資料をご確認ください。
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