介護保険の窓口や地域包括支援センターで、こういう場面に立ち会ったことのある方は多いと思います。入院や入所の手続きで緊急連絡先や身元保証人の欄が埋められない。お一人で亡くなったあと、葬儀も納骨も家財の片づけも、誰が引き受けるのか決まらない。制度の外側にこぼれ落ちるこうした場面を、職員が個人の裁量と善意でしのいできた——そんな実感です。
2026年6月25日に公布された「社会福祉法等の一部を改正する法律」は、この領域に正面から手を入れるものです。社会福祉法・介護保険法・障害者総合支援法・生活困窮者自立支援法などをまとめて改める一括法で、施行は一部を除き2027年4月1日。ちょうど第10期介護保険事業計画(2027〜2029年度)が始まる日と重なります。介護保険の担当課にとっても、他人事ではない改正です。
福祉サービスの利用援助から、入院・死後事務まで
改正の柱のひとつが、身寄りのない高齢者等への支援です。これまでも、判断能力が十分でない方を対象に、福祉サービスの利用援助や日常的な金銭管理、書類の預かりを行う「福祉サービス利用援助事業」(いわゆる日常生活自立支援事業)がありました。改正法は、この事業の名称と中身を広げ、「福祉サービス・保健医療サービス等利用援助事業」として組み直します。
広がるのは、支援の範囲と対象者像の両方です。支援の範囲としては、従来の日常生活の支援に加えて、病院への入院や介護施設への入所の手続きの支援、緊急連絡先の提供、医療費や利用料の支払いに関する支援、そして葬儀・納骨・家財処分の契約手続きや行政への届出といった死後の事務までが視野に入ります。対象者像については、判断能力が不十分な方に加えて、判断能力はあるけれども頼れる身寄りがなく、日常生活に支障がある高齢者や生計困難者が新たに含まれる整理です。
そして、この事業は第二種社会福祉事業として位置づけられます。届出をすれば社会福祉法人以外も担い手になれる類型で、実施主体としては社会福祉協議会が中心に想定される一方、民間事業者の参入も見込まれています。近年、いわゆる高齢者等終身サポート事業をめぐって契約や費用の不透明さが指摘されてきたことを踏まえると、この領域を福祉の枠組みのなかに置き直すという意味合いは小さくありません。
市町村には、権利擁護の相談支援体制が求められる
もうひとつ、市町村に直接かかわる改正があります。判断能力が不十分な方が成年後見制度や地域の権利擁護事業を適切に利用できるよう、本人や支援関係者からの相談支援と、地域の関係機関・民間団体の連携体制の整備を、市町村の努力義務とする内容です。あわせて、その中核的な役割を担う機関として「地域権利擁護相談支援センター」を市町村が設置できるようになります。
成年後見制度利用促進の文脈で、すでに中核機関を置いている自治体は少なくないと思います。今回の改正は、そこで積み上げてきたものを土台にしつつ、「相談支援」と「連携体制の整備」を法律上の役割として明確にするものと読めます。すでに中核機関がある自治体は、いまの体制が新しい枠組みでどう位置づくのかを確認する作業から。まだの自治体は、権利擁護の相談がいま実際にどこへ来ていて、誰が抱えているのかを洗い出すところから始めるのが現実的です。
施行日が一つではない、という点に注意
実務で気をつけたいのが、施行日が改正内容ごとに分かれていることです。原則は2027年4月1日ですが、身寄りのない方への支援の拡充にあたる部分は、公布から2年以内で政令で定める日とされています。つまり、この部分は2027年4月に一斉に動き出すとは限りません。
ここは、慌てる必要がないところでもあります。事業の具体的な運用は今後の政省令や通知で示されますので、いまの段階で細かい要綱を書き込む必要はありません。むしろ大切なのは、「準備に使える時間が与えられている」と受け止めて、担い手の話し合いを先に始めておくことだと思います。社協が現在の日常生活自立支援事業でどれだけの件数を抱えているのか、人員に余力があるのか、死後事務まで引き受ける体制が組めそうか——この確認には、それなりの時間がかかります。
第10期計画に、どう織り込むか
ではこれを、いま進めている第10期計画のどこに置くか。無理に新しい章を立てる必要はないと考えています。多くの自治体で、権利擁護や高齢者虐待防止に関する記載はすでに任意記載事項の側にあります。その記載を、今回の改正を踏まえて書き足すのが自然な形です。
そのときに効いてくるのが、手元のデータで実態を裏づけることです。単身高齢世帯の数と今後の見通し、日常生活自立支援事業の利用者数の推移、成年後見の市長申立ての件数、地域包括支援センターに寄せられる相談のうち身寄りに関するものがどれくらいあるか。こうした数字を圏域別に並べておくと、「必要だから書く」ではなく「これだけの人がいるから書く」という説明になります。ニーズ調査の読み方で触れた考え方が、そのまま使えるところです。
もうひとつ、担い手の確保を計画の言葉にしておくことをおすすめします。第10期の基本指針案では、人材確保や経営基盤の強化が任意記載事項として整理される方向が示されています。身寄りのない方への支援を誰が担うのかという問いは、まさにその人材と体制の話です。社協・地域包括支援センター・法人後見・民間事業者を、地域のなかでどう組み合わせるのか。その見取り図が計画に一行でも書かれていれば、施行後の協議の出発点になります。
介護保険の担当課にとっての意味
この改正は社会福祉法が中心なので、庁内では福祉総務や地域福祉の所管と受け止められることも多いと思います。ただ、現場でいちばん早くこの課題に出会うのは、介護保険の窓口と地域包括支援センターです。ケアマネジャーが入院手続きで困り、包括の職員が緊急連絡先の代わりを頼まれ、施設が入所判定で悩む。その相談は、制度の所管がどこであろうと介護保険の側に持ち込まれます。
だからこそ、改正の中身を早い段階で共有しておくことに意味があります。所管が違うから知らなかった、では現場の職員が困るだけです。庁内で一度、改正の概要を持ち寄って話す場をつくる——秋のうちにできることとしては、これが案外いちばん効くのではないかと思っています。
おわりに
身寄りがないということは、その人が何かを間違えた結果ではありません。子どもがいない、遠方にしかいない、関係が途切れている。どれも、これからますます当たり前になっていく姿です。国立社会保障・人口問題研究所の世帯推計でも、単身の高齢世帯は今後さらに増えていくと見込まれています。「例外的な困りごと」として個別対応でしのぐ段階は、もう過ぎたのだと思います。
今回の改正は、その現実に制度の側が追いついた一歩と受け止めています。もちろん、担い手の確保も費用の設計もこれからで、簡単な話ではありません。それでも、職員一人ひとりの善意に頼るしかなかった領域に、根拠となる条文ができたことは、現場にとって確かな支えになるはずです。
まずは、いま地域で何件くらいの困りごとが起きているのかを、数字で掴んでみるところから。それがそのまま、計画に書く一文の裏づけになります。「うちの計画のどこに書くのが自然か」「データの集め方をどう組み立てるか」——そんな段階のご相談も歓迎です。お問い合わせフォームからお気軽にどうぞ。私たちも、地域を支えるみなさんを応援しています。
本稿の内容は執筆時点の公開情報に基づきます。ご紹介した改正は2026年6月25日公布の「社会福祉法等の一部を改正する法律」によるもので、施行期日や事業の詳細な運用は今後の政省令・通知により定められます。最新の正式な内容は厚生労働省の告示・通知および各審議会の資料をご確認ください。
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