介護保険の窓口で、こんなやり取りが毎日のように繰り返されています。ケアマネジャーから「あの方の認定結果、もう出ていますか」と電話が入る。事業所から負担割合証の再発行を頼まれる。主治医意見書が郵送で届くのを待ち、届いた紙を職員が入力する。どれも制度の中核ではないのに、確実に人手と時間を食っていく仕事です。
この部分を電子的な情報共有に置き換えていくのが「介護情報基盤」です。利用者本人・市町村・介護事業所・医療機関が、本人の同意のもとで介護保険被保険者証等情報や要介護認定情報を電子的に閲覧できるようにする仕組みで、2026年4月1日の改正介護保険法の施行にあわせて、準備の整った市町村から順次スタートしています。そして2026年8月7日、この連携を「いつまでに備えるか」が告示という形ではっきりしました。保険者にとっては、ここからが本番です。
告示で確定した適合基準日
2026年8月7日に公布・施行された厚生労働省告示第303号は、介護保険システムに関する機能要件・帳票要件の標準の細目とあわせて、それぞれの「実装区分」と「適合基準日」を定めたものです。適合基準日とは、その機能をシステムが備えていなければならない期日のこと。標準化対応の大部分については2026年4月1日が基準日とされている一方で、介護情報基盤と連携するための機能群には2027年1月1日という別の期日が置かれました。
対象となる機能は、告示の別表第一を見ると具体的です。介護保険被保険者資格情報、被保険者証情報、負担割合情報、減免減額認定証情報、要介護・要支援認定情報を介護情報基盤へ提供すること。そして主治医意見書等情報を照会できること。連携の仕方についても、「介護情報基盤との連携におけるインタフェース仕様書」に準拠すること、日次(1日1回以上の頻度)で自動連携すること、差分連携を推奨すること、返却された登録結果を確認できること、といった条件が付されています。
ここで押さえておきたいのは、これはベンダーが対応すべき機能要件であって、自治体が独自に何かを開発する話ではないという点です。とはいえ、契約している標準準拠システムがこの基準日に間に合う形で改修されるのかどうかは、保険者として確認しておくべきことです。「2027年1月1日」という日付を持って、ベンダーとの打ち合わせのテーブルに着く——いま最初にできるのは、おそらくこれだと思います。
2026年4月から2028年4月までの二段構え
スケジュール全体の考え方は、一斉スタートではなく段階的な移行です。厚生労働省が2025年7月22日に発出した介護保険最新情報Vol.1405では、2026年4月1日以降、介護情報基盤との連携を含めた標準化対応が完了した市町村から、順次、介護保険システムから介護情報基盤へのデータ移行と情報共有を開始すること、そして2028年4月1日までに、全市町村においてデータ移行も含めて完了し、介護情報基盤の活用を開始することを目指すことが示されています。
この「2028年4月1日」という目標が置かれた背景には、自治体向けアンケートの結果があります。社会保障審議会介護保険部会に示された資料では、介護情報基盤との連携を含めた標準化対応を2027年度中に完了予定の自治体が約9割とされ、そこにデータ移行の期間を見込んで全国での活用開始時期が設定された形です。裏を返せば、2027年度は全国の保険者が一斉に移行作業に入る年になります。第10期介護保険事業計画(2027〜2029年度)の初年度と、そのまま重なります。
つまり、いま進めている計画づくりの先に待っているのは、計画の初年度に情報基盤の移行作業が同時進行するという現実です。担当課の人員配置を考えるとき、この重なりは頭の片隅に置いておいて損はありません。
窓口の仕事は、どう変わるか
制度の話が続きましたが、現場にとっての意味はもっと具体的です。厚生労働省が事業者・医療機関向けに示している説明では、介護情報基盤の活用によって、要介護認定申請の進捗状況について市町村へ電話等で問い合わせる必要がなくなること、ケアプラン作成に必要な要介護認定情報の提供を市町村へ依頼する手続きや、窓口・郵送での受け取りが不要になることが例として挙げられています。
主治医意見書についても、医療機関が介護保険資格確認等WEBサービスで作成・送信できるようになり、市町村への郵送が不要になります。すでにオンライン資格確認等システムにつながっている電子カルテや文書作成ソフトから送信する道も用意される方向です。
ここは、保険者の側から見ると「問い合わせ対応という業務が減る」という話です。認定係の電話が一日に何本鳴っているか、そのうち進捗確認が何割か——おそらく、どの自治体でも相当な割合を占めているはずです。その時間が空けば、認定の審査そのものや、困難ケースの相談にあてられます。効率化の効果を、削減された時間の使い道とセットで庁内に説明できるようにしておくと、移行にかかる予算要求の場面でも話が通りやすくなります。
事業所への周知も、保険者の役割
もうひとつ忘れたくないのが、管内の介護事業所への周知です。介護保険最新情報Vol.1405は、都道府県・市町村に対して管内の介護事業者等への周知を依頼する形で出されています。
事業所が介護情報基盤を使うには、インターネットに接続した端末にクライアント証明書を導入し、介護保険資格確認等WEBサービスの初期設定を行い、マイナンバーカードで本人確認をするためのカードリーダーを導入する必要があります。これらの負担に対しては支援策が講じられることとされ、申請は国民健康保険中央会が設置する介護情報基盤のポータルサイト経由で受け付ける仕組みが示されています。
このあたりは、事業所の規模によって受け止め方がかなり違うところです。法人本部のある事業者なら情報も届きますが、職員数名の小規模な事業所ほど「何をいつまでにやればいいのか」が届きにくい。集団指導や事業所連絡会の機会に、一枚の資料として配っておくだけでも違います。あわせて、現在事業所が使っている「ケアプランデータ連携システム」を介護情報基盤と介護保険資格確認等Webサービスに統合する方針も示されていますので、すでに同システムを導入している事業所には、その先行きも伝えておきたいところです。
いま、保険者が確かめておきたい三つのこと
やることが多いように見えますが、この秋の段階で押さえるべきことは、そう多くありません。
ひとつめは、自団体の標準準拠システムが介護情報基盤との連携機能をいつ備えるのかを、ベンダーに確認すること。告示の適合基準日は2027年1月1日ですから、そこから逆算した改修とテストの日程が示されているかどうかが要点です。
ふたつめは、データ移行にどれくらいの期間と作業量がかかるのかを見積もっておくこと。機能が備わることと、実際にデータが基盤へ移り情報共有が始まることは別の工程です。ここを見誤ると、第10期の初年度に思わぬ負荷がのしかかります。
みっつめは、庁内と事業所への説明の材料をつくっておくこと。何のための仕組みで、誰の手間がどう減るのか。先に共有しておけば、移行そのものへの協力も得やすくなります。なお、介護情報基盤は社会保障審議会介護保険部会でも引き続き報告事項として扱われており、今後の資料で運用の詳細が更新されていくことが見込まれます。年度後半は、部会資料と介護保険最新情報の発出に目を配っておきたい時期です。
おわりに
システムの標準化も情報基盤も、正直なところ、日々の窓口対応に追われるなかでは後回しにしたくなるテーマだと思います。目に見える住民サービスの改善につながるまでに時間がかかり、途中の作業はほとんどが地味な確認と調整です。
それでも、ケアマネジャーが電話をかけずに認定結果を確認でき、医療機関が意見書を郵送しなくてよくなる——その状態は、確実に地域の負担を軽くします。そして今回、期日が告示という明確な形で示されたことで、「いつまでに何を」を根拠を持って庁内に説明できるようになりました。これは、進めるうえでの追い風だと思います。
まずは、ベンダーとの次の打ち合わせで2027年1月1日という日付を一度持ち出してみるところから。第10期計画のスケジュールと並べてみると、いつ何が重なるのかが見えてきます。「うちの移行スケジュールをどう組み立てるか」「庁内説明の資料をどうまとめるか」——そんな段階のご相談も歓迎です。お問い合わせフォームからお気軽にどうぞ。私たちも、地域を支えるみなさんを応援しています。
本稿の内容は執筆時点の公開情報に基づきます。適合基準日は2026年8月7日公布・施行の厚生労働省告示第303号(介護保険システムに関して厚生労働大臣が定める機能要件の標準の細目並びに実装区分及び適合基準日等)別表第一、スケジュールおよび事業所支援の内容は介護保険最新情報Vol.1405(2025年7月22日)ならびに社会保障審議会介護保険部会資料によります。今後の運用の詳細は厚生労働省の告示・通知および各審議会の資料をご確認ください。
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