「AIのソフトを入れるならこの補助金、機械を入れるならあの補助金」。中小企業がAIや省力化の投資を考えるとき、まず悩むのがどの窓口に申し込めばよいのかという点でした。その構図が、来年度から変わるかもしれません。
経済産業省が公表した令和9年度(2027年度)の概算要求に、「中小企業省力化・デジタル化・AI投資支援事業(省力化・デジタル化・AI投資補助金)」が新規事業として盛り込まれました。要求額は3,746億円。いまの「デジタル化・AI導入補助金」と「中小企業省力化投資補助金」を、ひとつの枠組みで支援する内容です。
ただし、概算要求は各省庁が「来年度はこれだけ必要です」と財務省に求める段階にすぎません。年末の政府予算案、年明けの国会審議を経て初めて決まるもので、名称も金額も中身も、これから変わる可能性があります。今回は、その前提を置いたうえで、公表されたPR資料から読み取れることと、いまのうちに準備しておけることを整理します。
何が「ひとつ」になるのか
現在、AIの業務活用に使える国の補助金としては、ITツールの導入を支える「デジタル化・AI導入補助金2026」と、人手不足解消のための設備投資を支える「中小企業省力化投資補助金」が、別々の制度として動いています。後者でもAIを組み込んだシステム構築が対象になりうることは、省力化投資補助金〈一般型〉の記事でご紹介しました。
来年度の要求資料では、この二つが「省力化設備の導入やデジタル技術の活用を一体的に支援する」事業として整理されています。具体的な支援対象として挙げられているのは、AXの促進や業務効率化・DXに向けたAIの活用、サイバーセキュリティ対策、インボイス制度への対応などに向けたITツールの導入。あわせて、人手不足解消に効果がある汎用製品を「カタログ」から選んで導入する簡易な省力化投資と、現場ごとの設備や事業内容に合わせた設備導入・システム構築も支援するとされています。
つまり、いまの二つの補助金がそれぞれ担ってきた役割を、ひとつの事業の中にまとめて並べた形です。申請の枠や補助率、上限額、申請の手順がどうなるかは、現時点では示されていません。それでも、「ソフトはこちら、機械はあちら」と分けて考えてきた発想そのものを見直すきっかけにはなりそうです。
「補正予算頼み」からの変化
もうひとつ注目したいのが、予算の組み方です。この事業は、中小企業基盤整備機構への運営費交付金(生産性革命推進事業)の一部として要求されています。その運営費交付金全体の要求額は6,980億円。資料には比較として、令和8年度の当初予算が188億円、令和7年度の補正予算が3,400億円と並んで記載されています。
数字が示すとおり、これまでこうした補助金の財源は、主に年度途中の補正予算で手当てされてきました。今回はそれを、年度のはじめから組む当初予算として要求していることになります。同じ枠組みの中では、中小企業成長加速化補助金(2,350億円)や小規模事業者持続化補助金(447億円)なども要求されています。
要求どおりに認められるかは、まだわかりません。ただ、もし当初予算に安定して組み込まれるのであれば、公募の時期や回数の見通しが立てやすくなる可能性があります。補助金を前提に投資を先送りするよりも、自社の計画を先に固めておくほうが、どちらに転んでも動きやすいはずです。
資料に書かれた「成果目標」を読む
PR資料には、それぞれの事業に成果目標が書かれています。ここは、国がこの補助金に何を期待しているのかがよく表れる部分です。
デジタル化・AI投資については、補助事業者全体の労働生産性が、事業終了後1年で3%以上、3年で9%以上向上することを目指すとされています。省力化については、取得した設備の効果で業務プロセスが20%以上省力化された事業者の割合が90%を超えることが短期の目標です。
ここから読み取れるのは、「導入したかどうか」ではなく「導入して、仕事と生産性がどう変わったか」が問われている、ということです。これはいまの制度でも同じで、補助を受けた後には効果の報告が求められます。来年度の制度がどんな形になっても、導入前の業務時間を測っておき、導入後と比べられるようにしておくことの価値は変わらないでしょう。
補助金だけではない「伴走」の動き
今回の概算要求では、お金の支援とは別に、AI導入の進め方そのものを支える取り組みも目を引きます。
中小企業庁の「中小企業・小規模事業者ワンストップ総合支援事業」(要求額96億円)の中に、「地域AXネットワーク事業」が掲げられました。中小企業とAIサービス提供者、支援者のネットワークを地域ごとに全国に構築し、中小企業のAI導入を伴走支援するというものです。あわせて、業種別にAI導入の進め方・手法を整理した「業種別ガイドライン」を作成・周知するとされ、1,000社への伴走支援が目標に掲げられています。
また、各都道府県の「よろず支援拠点」では、価格交渉・価格転嫁の相談対応に生成AIツールを導入して有効性を調べることも盛り込まれました。経済産業政策局の側でも、地域の中堅・中核企業を対象に、経営課題の整理からAX(AIによる変革)の戦略づくりまでの初期段階を支援する新規事業(要求額9.7億円)が要求されています。
AIの導入でつまずくのは、多くの場合「ツールの代金」よりも「どの業務に、どう使うか」を決める段階です。国がそこに手当てしようとしていることは、補助金の一本化と同じくらい大切な変化だと感じます。
では、いま何をしておくか
来年度の制度はまだ設計図の段階です。そのうえで、この秋にできることを三つ挙げます。
第一に、今年度の制度を「待たずに使う」選択肢を確認すること。デジタル化・AI導入補助金2026は、事務局の公表スケジュールで通常枠などの5次締切が2026年9月29日(火)17時、交付決定は11月9日の予定です。その先の募集回も予定表に枠が設けられていますが、日程はまだ公表されていません。いま必要な投資を、来年度の新制度を待って先送りする理由はありません。今年度に使うか、来年度を見据えるかを、投資の緊急度で判断してください。
第二に、業務の時間を、いまのうちに測っておくこと。先に見たとおり、国が見ているのは生産性の変化です。「受発注の入力に1日何時間」「見積書の作成に1件何分」といった数字を、導入前の今から記録しておけば、どの制度に申請するにしても計画の説得力が増し、導入後の効果測定もぶれません。
第三に、「ソフトか機械か」ではなく「どの業務を変えるか」で考えること。制度がひとつにまとまる方向にあるなら、発想も業務単位に揃えておくのが自然です。たとえば「受注から出荷まで」という流れの中で、AIに任せる部分、機械に任せる部分、人が判断する部分を一枚の図に描いてみる。それが、来年の申請書の骨格にもなります。あわせて、申請に必要なGビズIDプライムをまだ取得していなければ、早めに手続きしておくと安心です。
おわりに
AIの補助金と省力化の補助金がひとつの枠組みに並べられる——この動きは、AIが「IT部門の話」から「現場の人手不足にどう向き合うか」という経営の話に移ってきたことの表れでもあります。
制度の細部が固まるのは、まだ先です。けれど、自社のどの業務に時間がかかっていて、どこを変えたいのか——その答えは、制度の決定を待たずに、今日から考え始めることができます。準備ができている会社ほど、新しい制度をうまく使いこなせるはずです。年末の予算案の発表を、ぜひ「待っていた」と言える状態で迎えてください。
「うちの業務だと、AIと機械のどちらが効くのか」「業務時間の測り方がわからない」——そんな段階のご相談も歓迎です。お問い合わせフォームからお気軽にどうぞ。私たちも、限られた人数で工夫を重ねる会社を応援しています。
本稿の内容は執筆時点(2026年9月16日)の公開情報に基づきます。来年度の事業内容・要求額は、経済産業省「令和9年度経済産業省概算要求のPR資料(一般会計)」の記載によるもので、概算要求段階の情報です。今後の予算編成・国会審議により、名称・金額・内容が変更される場合があります。実際の補助率・上限額・申請要件は、予算成立後に公表される公募要領をご確認ください。デジタル化・AI導入補助金2026の締切日等は、同補助金事務局の事業スケジュールの公表内容に基づきます。
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