AIを使い始めた会社ほど、ある時期から「で、うちは進んでいるのか、遅れているのか」が分からなくなります。社内で比べる相手がいないからです。その物差しとして国が用意しているのが「DX推進指標」という自己診断の仕組みで、これが2026年8月、使い勝手の面で大きく変わります。
IPA(情報処理推進機構)は2026年8月3日、「DX推進指標自己診断フォーマット」のWebフォーム化とガイダンス資料の公開を発表しました。公開時期は2026年8月下旬から9月上旬とされています。地味な発表に見えますが、中小企業にとっては「試してみるハードル」がはっきり下がる変更です。
DX推進指標とは、何をする仕組みなのか
DX推進指標は、経営者と社内の関係者が自社のデジタル化の現状と課題について認識をそろえるための自己診断ツールです。IPAの案内では、「DXの何から手をつければよいのかわからない」という悩みを解決するために作られた、と説明されています。
特徴は、点数をつけて終わりにしないところにあります。設問はDX認定基準に関するものに答えたうえで、現在のレベルと3年後の目標レベルを、0から5までの6段階で評価していく形になっています。つまり「いまどこにいるか」と「どこを目指すか」を同時に言語化させる作りです。しかもIPAは、担当者が一人で埋めるのではなく関係者で議論しながら記入することを勧めています。診断そのものより、その議論のほうが本体だと言ってよいでしょう。
回答をIPAの「DX推進ポータル」に提出すると、ベンチマークレポートが受け取れます。他社や業界全体の回答と比べて、自社がどのあたりに位置しているかが分かる資料です。このレポートは提出した企業だけが取得でき、一般には公開されません。
何が変わるのか——Excelが要らなくなり、待ち時間が消える
今回の変更点は、大きく二つです。
ひとつは入力方法。これまではExcelのフォーマットをダウンロードして記入する形でしたが、Webフォーム化によりExcelのローカルインストールが不要になり、そのまま入力できるようになります。パソコンの環境に左右されにくくなるという意味で、小さな会社ほど恩恵があります。
もうひとつがベンチマークレポートの速さで、こちらのほうが実務上は大きい変化です。従来このレポートは年2回の発行でした。提出しても、結果が手元に届くのは先——というリズムだったわけです。それが今後は、提出後5分から10分程度で確認できるようになるとIPAは説明しています。
年2回と、10分。この差は単なる時短ではありません。「会議の場で診断して、その場で結果を見ながら議論する」という使い方が現実的になるということです。半年待つ資料は、届く頃には熱が冷めています。その日のうちに出てくる資料は、その日の議題になります。
先に押さえておきたい日付——受付が一時止まります
切り替えにあたって、現行フォーマットの受付が2026年8月26日(水)から8月31日(月)まで停止されると発表されています。いま提出を考えている場合は、この期間にかかると手が止まります。
また、2026年4月3日から8月25日までに提出した企業については、Webフォームの公開日からベンチマークレポートを閲覧できるとされています。すでに出してある会社は、公開後にポータルをのぞいてみるとよさそうです。
あわせて、改訂のポイントや提出・活用方法、全体構成と回答のポイントをまとめたガイダンス資料も公開されています。いきなり設問に向き合う前に、こちらに目を通しておくと迷いが減るはずです。
中小企業がこれを使うなら、どう使うか
正直なところ、この種の指標は「大企業向けでは」と身構えられがちです。ただ、使い方を限定すれば、小さな組織のほうが効果は出やすいと考えています。
ひとつめの使い方は、社内の温度差を見つけることです。経営者と現場担当者が別々に回答してみると、たいてい評価がずれます。経営者は「もう十分やっている」、現場は「何も決まっていない」——このずれが見えるだけで、次に話し合うべきことがはっきりします。点数の高低より、ずれている設問こそが宝の地図です。
ふたつめは、3年後の目標レベルを言葉にすること。AIの導入は、道具を入れる話に寄りがちです。しかし本当に効いてくるのは「3年後、どの業務がどうなっていてほしいか」を先に決めた会社のほうだと感じています。この指標は、その会話を強制的に発生させてくれます。
みっつめは、補助金や社内説明の材料にすること。自社の現在地を第三者の物差しで示せると、投資の判断も、金融機関や支援機関への説明も通しやすくなります。デジタル化・AI導入補助金2026のような制度を検討している場合、「なぜこの投資が必要なのか」の裏づけとして使えます。
診断は、あくまで入口です
ひとつだけ、気をつけたいことがあります。診断を提出した時点で満足してしまうのは、よくある落とし穴です。レポートが10分で出てくるようになると、なおさら「やった感」が先に来ます。
以前このコラムで、情報通信白書が映した中小企業のAI活用の壁を取り上げました。AIを使っている会社は多いのに、組織としての取り組みになっていない——という話です。DX推進指標も同じで、診断の価値は、その後に一つでも行動が変わったかどうかで決まります。設問をきっかけに「まずこれをやろう」が一つ決まれば、それで十分に元は取れています。
おわりに
Webフォーム化は、制度そのものが変わる話ではありません。それでも、Excelを開かなくてよくなり、結果が半年後ではなく10分後に届く——この二つは、忙しい会社が実際に手をつけられるかどうかを分ける現実的な差です。制度は、使われて初めて意味を持ちます。
8月下旬から9月上旬の公開を待って、一度、経営者と現場の方それぞれで回答してみてはいかがでしょうか。答え合わせの時間が、たぶん一番おもしろいところです。
稀株式会社では、中小企業のAI活用と業務のデジタル化について、AI・DX支援のご相談を承っています。「何から手をつけるか」の整理段階からで構いませんので、お問い合わせフォームよりお気軽にお声がけください。
本稿の内容は執筆時点(2026年8月19日)の公開情報に基づきます。公開時期・受付停止期間・提出方法の詳細は、IPA(情報処理推進機構)の発表およびDX推進ポータルの最新の案内をご確認ください。
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