国の計画というと、五年に一度くらいのゆっくりした話だと思われがちです。ところがAIの分野では、そうなっていません。2026年7月14日、政府は「第Ⅱ期人工知能基本計画」を閣議決定しました。最初の計画が閣議決定されたのは2025年12月ですから、わずか半年あまりでの改定です。副題は「日本AX、より強く、より豊かに」。

正直なところ、こうした計画は自社と関係のない遠い話に見えます。ただ今回の計画は、中小企業にとって一か所だけ、目を留めておく価値のある書き方をしています。「中小企業と地域での活用の遅れ」が、日本の課題として名指しで書かれているのです。この記事では、その部分を中心に、何が変わろうとしているのか、いま手をつけるとしたら何かを整理します。

半年で改定された理由——AIが「使う道具」でなくなった

改定の理由は、計画の冒頭にはっきり書かれています。AIが「業務を支援するツールから、意思決定・実行を担う主体へと進化」したという認識です。とくにエージェント型AI——指示を一つ受けると、必要な道具を自分で使い、手順を組み立てて最後まで実行してしまうタイプのAI——が急速に伸びたことが、改定の直接のきっかけとして挙げられています。

この違いは、実務でも実感しやすいところだと思います。文章を書いてもらう、要約してもらうという使い方であれば、出てきたものを人が読んで判断すれば済みました。しかしAIが調べ、書き、送るところまでやるようになると、人が確認する場所を先に決めておかないと、気づいたときには終わっているという状態が生まれます。国の計画がわざわざ半年で書き換えられた背景には、この質的な変化があります。

そのうえで計画が掲げるのが「AX(AIトランスフォーメーション)」という言葉です。定義は「AIを前提として意思決定や業務の進め方を根底から見直すこと」。DXが紙や手作業をデジタルに置き換える話だったのに対し、AXは「そもそもこの仕事は人がやる形のままでよいのか」を問い直すところまで踏み込みます。言葉としては大げさですが、中身は業務の棚卸しに近く、決して手の届かない話ではありません。

「中小企業と地域」が課題として書かれている

今回いちばん注目したいのが、現状認識の部分です。計画は日本の状況をこう整理しています。現場実務でのAI利活用は加速しており、開発投資も伸びている。しかし組織全体、中小企業、地域での活用に課題がある、と。

つまり、「個人が使っている」ことと「組織が使えている」ことは別だという見立てです。これは以前ご紹介した情報通信白書が映した中小企業のAI活用の壁とも重なる指摘で、統計から見ても政策文書から見ても、同じ場所が弱点だと認識されていることになります。

そして施策の側にも、対応する記述が置かれています。地方の伸び代を成長に転換するため、中堅・中小企業におけるAI導入や、AIを活用した地域密着型の新規事業の立ち上げを支援するという方向性。さらに「AIを前提とした産業構造・雇用環境の構築」の項目には、「中小企業、地方含むAX推進(取組可視化等)」と明記されています。

ここで気になるのが「取組可視化」という言葉です。計画本文にそれ以上の詳細はありませんので、具体的な制度がどうなるかは今後の施策を待つほかありません。ただ一般論として、支援の対象を絞るには、取り組んでいることを外から見える形にしてもらう必要があるのは確かです。自社が何にAIを使い、どんな効果が出て、どこで人が確認しているのか。こうしたことを説明できる状態にしておくのは、補助金の申請であれ取引先への説明であれ、いずれ効いてくる準備だと思います。

いま動いている支援策——9月末に締切がひとつ

計画そのものは方針ですが、その手前に、すでに動いている制度があります。デジタル化・AI導入補助金2026(旧・IT導入補助金)です。事務局が公表している事業スケジュールによれば、通常枠・インボイス枠・セキュリティ対策推進枠の第5次締切は2026年9月29日(火)17時、複数者連携デジタル化・AI導入枠の第3次締切は2026年10月30日(金)17時とされています。それ以降の回については、確定したものだけを公表する運用とされており、本稿の執筆時点では未公表です。

この補助金は、ソフトウェアを選んで申し込めば済むものではなく、登録されたIT導入支援事業者と組んで進める仕組みです。ツールの選定や書類の準備に時間がかかりますので、締切日から逆算すると、実質的な準備期間はもっと手前で終わります。制度の全体像や申請の進め方は「デジタル化・AI導入補助金2026」の現状と申請の進め方で整理していますので、あわせてご覧ください。設備や工程の省力化という切り口であれば、省力化投資補助金〈一般型〉という選択肢もあります。

なお、補助金は年度ごとに枠や要件が変わりますし、予算に達した枠から早めに終わる可能性も指摘されています。申請を検討される場合は、必ず公募要領と事務局の最新の公表内容をご確認ください。

会社の側で先に決めておきたい、二つのこと

計画を読んでいて、中小企業の実務にそのまま返ってくると感じた論点が二つあります。

ひとつは責任の線引きです。計画は、エージェント型AIを前提に、権利侵害や損害が発生した場合の責任分界について継続的に検討するとしています。裏を返せば、いまの時点では、はっきりした答えが国の側にもないということです。だからこそ会社の側で、「この業務では、AIが出したものを誰が最終確認し、誰の名前で外に出すのか」を先に決めておく意味があります。難しいルールブックは要りません。業務ごとに一行、確認者を書いておくだけでも状況はかなり変わります。この考え方はループエンジニアリングで書いた「合格ラインを先に決める」話とも地続きです。

もうひとつは人です。計画は、AIが働き方や雇用に与える影響を踏まえ、リ・スキリングの推進を含めた包括的な対策に取り組むとしています。中小企業でこれを大掛かりに構えるのは現実的ではありませんが、「社内で誰か一人、AIの使い方を人に説明できる人を育てる」という程度なら、今日からでも始められます。ツールを入れても定着しない原因の多くは、性能ではなく、聞ける相手がいないことです。何を入力してよいかというルールづくりについては企業のAI導入、最初に決めるべきことで扱っていますので、教育とあわせて整えていくとよいと思います。

おわりに——計画は「当面毎年変える」と書かれている

この計画には、もうひとつ印象的な一文があります。「本基本計画は当面毎年変更」するという趣旨の記述です。国の側も、いまは腰を据えて長期計画を書ける状況ではないと認めているわけです。

そう考えると、私たちの側の構え方も見えてきます。方針が毎年変わる領域で、高価なものを一度に買い揃えるのは得策ではありません。むしろ有効なのは、変わらない部分を先に固めておくことです。自社の仕事のうち、どれが繰り返しで、どれが判断を含むのか。誰が最終責任を持つのか。何を外に出してよいのか。これらはAIの性能が変わっても、そのまま使える土台になります。

国が「中小企業と地域が課題だ」と書いたということは、裏を返せば、ここに手を打つ会社が増えることを政策として期待しているということでもあります。焦って追いかける必要はありませんが、繰り返しの仕事をひとつ選んで、任せ方と確認のしかたを決めてみる。その一歩は、どの制度が来ても無駄になりません。

稀株式会社では、中小企業のAI活用と業務のデジタル化について、AI・DX支援のご相談を承っています。「何から手をつければよいか分からない」という段階からで構いませんので、お問い合わせフォームよりお気軽にお声がけください。

本稿の内容は執筆時点(2026年9月8日)の公開情報に基づきます。第Ⅱ期人工知能基本計画の内容は内閣府が公表する概要資料および計画本文、補助金のスケジュールは事務局が公表する事業スケジュールによります。制度の内容・締切・要件は変更される場合がありますので、申請を検討される際は必ず公式の公募要領および最新の公表内容をご確認ください。

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